2019年1月:2019年度税制改正大綱における、移転価格税制の見直しについて

        2018年12月14日に発表された平成31年度(2019年度)税制改正大綱における、移転価格税制(国際課税)に係る改正の概要について説明します。事前の予想通り、無形資産取引関連の改正が中心ですが、更正期間の延長等企業全般に大きな影響があるものも含まれています。これら移転価格税制に係る改正については、1年遅れで2020年4月1日以降開始の事業年度が適用初年度となります。

        1.無形資産取引に関する改正

       大綱に「『BEPSプロジェクト』の勧告により改訂されたOECD移転価格ガイドライン(以下“OECD  TPG”)を踏まえ、次の見直しを行う」とある通り、大幅に改訂されたOECD TPGの無形資産関連ガイドラインにほぼ則した改正となっています。

  (1)移転価格税制の対象となる無形資産の明確化

        移転価格税制の対象となる無形資産について、「法人が有する資産のうち、有形資産及び金融資産(現金、預貯金、有価証券等)以外の資産で、独立の事業者の間で通常の取引の条件に従って譲渡・貸付け等が行われるとした場合に対価の支払いが行われるべきものとする。」等明確化されます。

        上記における“対価の支払いが行われるべきもの”とは、OECD TPGによれば、その無形資産が対価を得るだけの価値を創出していることを意味します。価値を創出しているか否かの判断基準は難しいものの、例えば外資系企業の日本法人が国外関連会社から無形資産の貸与を受け対価としてロイヤルティを払っている場合、その無形資産が価値を創出していないと見做されると、ロイヤルティの国外関連会社への支払が否認されるリスクが高まると考えられます。

 (2)移転価格算定方法(以下“TPM”)の整備

        TPMとして従来認められている主要な5つの算定方法の他、OECD TPGにおいて比較対象取引が特定できない無形資産取引等に対するTPMとして有用性が認められているディスカウント・キャッシュ・フロー法(以下“DCF法”)が加わります。これに伴い、独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類の提出等がない場合の推定課税におけるTPMに、国税当局の職員が国外関連取引の時に知り得る状態にあった情報を基にしてDCF法により算定した金額を独立企業間価格とする方法を加えます。

       M&Aにおける企業評価等で用いられるDCF法は、損益計画(成長率を含む)、耐用年数、割引率などの前提条件の置き方によって結果に大きな差異が生じる方法です。DCF法を用いて国税当局が推定課税を行えるとなると、国税側に有利な前提条件を用いられ、更正が多額になるリスクがありますので、国外関連者との間に無形資産取引を有する企業は、推定課税が行われないように準備しなければなりません。つまり、独立企業間価格算定に必要な書類、特に移転価格ローカルファイルを、税務調査時にすみやかに提出できるよう予め作成しておくことが極めて望ましいでしょう。

 (3)評価困難な無形資産に係る取引(特定無形資産取引)に係る価格調整措置の導入

       特定無形資産(以下3つの要件の全てを満たす無形資産:①独自性があり重要な価値を有する、②予測収益等の額を基礎として独立企業間価格を算定する、③独立企業間価格の算定の基礎となる予測が不確実であると認められる)の取引に係る独立企業間価格の算定の基礎となる予測と結果が20%を超えて相違した場合、税務当局は当該特定無形資産取引に対し最適な価格算定方法により算定した金額、つまり実際の結果に基づいた算定を独立企業間価格とみなして更正等をすることができるとしています。無形資産を低税率国の関連会社に低額で譲渡するような節税取引の更正のみならず、海外子会社の利益率が上がっても当初の低い固定ロイヤルティ率を徴収している日本企業にも適用される可能性があります。実際の所得水準を基に課税できるということで、米国で既に採用されている所得相応性基準が導入されたと考えられます。

 2.移転価格税制に係る更正期間等の延長

       移転価格税制に係る法人税の更正期間及び更正の請求期間等が現行の6年から7年へと1年延長され、偽りその他不正の行為があった場合と同じ更正期間となりました。移転価格税制の対象となる企業は更正リスクが高まり、更なる備えが必要となるでしょう。

 3.差異調整方法の整備-四分位法の使用

       比較対象取引の利益率を参照するTPMに係る差異調整について、定量的に把握することが困難な差異があるために必要な調整を加えることができない場合には、いわゆる四分位法に基づく方法により差異調整を行うことができることとなります。

        独立企業間利益率の算定に用いる比較対象取引(企業)の損益データは、通常複数のデータの幅が独立企業間利益幅となりますが、世界的には四分位範囲(上下25%を除いた中間50%の幅)を用いるにもかかわらず、日本の税務当局は(比較対象取引が厳選されているとの前提で)最大値と最小値の間のフルレンジを適用すべきとの見解でした。しかしながら、現実的には全ての差異が定量的に調整できる程比較対象取引を厳選出来る事は少なく、多くの場合やはり四分位法の適用がより適切な結果を招くという事で今般正式に使用が認められたと思われます。

 (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

     (JAS月報2019年1月号掲載記事より転載)