2019年8月:フランスで公布された世界初のDST税制と米国の圧力

 欧州主要国はGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)等の巨大IT企業が節税により自国で殆ど法人税を払っていない事態を是正する為、EUが検討を進めているものの加盟各国の足並みがそろわないデジタルサービス税(Digital Services Tax、以下“DST”)を個別に導入することを検討しています(欧州各国のDST案の概要については本月報今年3月号を参照)。

 その中でも特に動きが早く、DST導入を積極的に準備していたフランスに対し、GAFAのお膝元である米国が介入してきました。7月10日に米通商代表部は、フランスが今にも可決しようとしているDST法案が米国企業を不当に差別する可能性について米通商法301条に基づいて調査を始めると発表しました。301条は昨年以降中国に制裁関税を課した根拠にもなった法律であり、DSTが不公正であると決定されれば、米国はフランスに対しても追加関税等の制裁を課すことができます。このような米国の介入にもかかわらず翌日7月11日、フランス上院は予定通りDST法案を可決し、実質的に世界初のDST導入が決まりました。そして同月25日に正式公布されましたが、その直後にトランプ大統領が「マクロン(仏大統領)の愚行に対する甚大な報復措置を速やかに発表する」とフランス産のワインに制裁関税を課すことを示唆しました。

フランスDSTの概要

 今回可決されたDST法は、恒久的な課税ではなく、EU(域内共通)またはOECD(世界共通)のDST基準が決まるまでの間の、おそらく数年間程度の暫定的課税措置との位置付けであり、年間5億ユーロ(約600億円)程度の税収を見込んでいます。DSTの概要は以下の通りです:

(課税対象となるデジタルサービス)

  • オンライン仲介サービス:他のユーザーとの対話を可能にするサービス、及びユーザー間で商品またはサービスが提供されるサービス。
  • オンライン広告サービス:特にターゲット広告に関する各種業務(広告の管理及び成果測定サービスを含む)、及び広告目的でのユーザー情報の譲渡。

(課税対象外のデジタルサービス)

  • デジタルコンテンツの提供のみを行うサービス、通信サービス、支払サービス等の仲介サービス。
  • 銀行及び金融サービス
  • 関連会社間で行われるサービス

(課税対象となる売上高)

 フランスで行われた上記課税対象デジタルサービスの売上高。フランスで行われたサービスとは、フランスに所在するユーザー(IPアドレス等により判別)に対して行われるサービス、またはフランスで開設されたアカウントに対して行われるサービスを指す。売上高の金額は、全世界の課税対象デジタルサービス売上高に、フランスで行われたサービスの割合を乗じて算出されるものと思われる。

DST課税対象の企業規模)

  • 全世界売上が5億ユーロ(約900億円)以上、且つフランスでの対象売上が25百万ユーロ(約30億円)以上ある企業のみが課税対象
  • 現在、課税対象は30社と見込まれており、その多くが米国企業であるが、中国、ドイツ、英国企業も含まれており、フランス企業も1社含まれている。(日本企業は含まれていない模様)

(税率、支払方法等)

  • 課税対象売上高(毎年12月末締め)の3%。但し前年課税額と同額の前払い(通常4月と9月)が必要
  • EUに拠点を有しない企業は、DST支払の為EU内で代理人を任命する必要がある。
  • 税務調査の時効は6年間(通常は3年間)
  • 税務調査時には、2ヵ月以内に税額計算に必要な全ての情報(フランス内外のユーザー数、課税対象売上高等)を当局に提出する必要有り。

懸念事項

  1. DSTは売上から費用を差引いた利益に課税する通常の法人税と違い、グロスの売上高に課税する事から、本当にフランスで儲かっていない企業にとっては非常に重い負担となる。
  2. 一定以上の規模の企業のみを課税対象にしたことで、対象の殆どがフランス国外企業(特に米国企業)となっており、差別的課税と見做されるおそれがある。
  3. 課税ベース及び税額の算定はユーザー数やアカウント数等の情報に基づくと思われるが現状明確とはいえず、税法上合法ではないとの見方もある。
  4. DSTは法人税上損金算入不可であり、いかなる税額控除の適用対象にもならず、二重課税防止の為の各国との租税条約の適用対象外である事から、課税対象企業に重い税負担を課すことになる。

アメリカの介入は正当か

 米国の介入の理由は上記の懸念事項(特に2.)に合致し、論理的には正当にみえます。但し筆者個人の意見としては、無条件に賛成できるものでもありません。理由は、アイルランドやルクセンブルクなどの低税率国からサービスを提供することによりサービス提供地での課税を大きく逃れてきたのは殆どが米国企業であり、それを可能にしたのは、そのような低税率国での利益計上に対し合算課税ができない米国の税制にも原因があるといえるからです。GAFA等の米国IT企業がここまで世界的に巨大になったのは、世界の優秀な頭脳がシリコンバレーを中心とする米国西海岸に集まってくるという理由だけではなく、米国以外では殆ど税金を払っていない事によるキャッシュメリットも大きいのではないかと思われます。フランスのみならず他の欧州各国、及びEUやOECDのレベルでもDSTを検討しているのは、そのような米国企業が受けている逆差別的な節税の恩恵を是正しようとする動きなのです。

 とはいえ、米国がふりかざす通商法301条は、現在中国が被っている苦境を考えると、フランスにとっても脅威である事は間違いありません。ルメール仏経済・財務相は本件DSTについて米国に対し(同氏が信頼を置くムニューシン米財務長官等を通じ)「制裁の応酬でなく対話により解決しよう」と呼び掛けていますが、果たして301条発動やトランプ大統領の言う甚大な報復卒を回避できるのか、今後の展開が注目されます。

 (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

 (JAS月報2019年8月号掲載記事より転載)