2019年11月:OECDがデジタル課税の「統一案」を発表

 今年の国際課税の話題はもっぱらデジタル課税でした。GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)をはじめとする大手IT企業が大掛かりな節税を行い、米国以外では殆ど税金を払っていない事に対しEUや欧州諸国は看過せず課税案を打ち出し、特にフランスは率先して今年7月、大手オンライン企業の仏国内売上の3%に課税するデジタルサービス税(DST)導入を決定しました(本月報本年8月号参照)。一方経済協力開発機構(“OECD”)は、そのような各国独自の課税による国同士の対立や経済の混乱を防ぐ為国際協調的なDST案作成を進めています。今年2月に発表した公開草案では、主要国の異なる主張を代表する3つのDST案を発表するにとどまりました(本年4月号参照)が、この程「統一アプローチに関する事務局提案」を10月9日付で発表しました。OECDは本案について「OECD事務局による、各国による複数の提案をとりいれた統一案である。この案で各国の合意が得られた訳ではなく、今後の議論の叩き台としての位置付けである」と発表しています。

OECD統一案の概要

 OECD統一案の主な特徴は以下の通りです:

 1.課税対象企業:consumer-facing-business(消費者向け事業)を対象とするとしています。ここで言う消費者は個人のみならず最終ユーザーも含まれるので、ネット広告事業のように企業を対象とする事業も含まれます。“消費者向け事業”にどのような業界が含まれ、あるいは除外されるかの定義については未定ですが、GAFA等のインターネット事業を行うIT企業のみならず、製薬会社、家電メーカーなど最終消費者にモノを販売する企業は全て含まれる可能性があります。これは正に、GAFA等に対する狙い撃ち課税を嫌う米国の提案が反映されたものです。

 2.課税の基準:これまでの「拠点なければ課税なし」の大原則にとらわれず、拠点がなくても一定以上の売上をあげていれば、その国で課税できるとします。この「一定以上の売上」の額についても、国別報告書の提出基準である€750百万(約900億円)のような単一の基準か、各国の経済規模に応じた異なる額が設けられるのか等、現時点では全く未定です。

 3.利益配分基準:統一案では、以下(A)~(C)の3段階の利益配分案を提案しています。

 (A)販売国への残余利益配分(新課税権):売上が発生しているにもかかわらず拠点が無いIT企業に対し課税できない国に新たな課税権を配分する事がこの段階の主な目的ですが、米国の意向を反映したと思われる限定的な仕組みとなっています。まずは、(1)消費者向け事業に携わる多国籍企業の連結損益計算書上の利益から、ノウハウ等を要しない通常の活動から生まれる利益(routine profit)を差引き、残りの利益、つまりノウハウを含む無形資産等から生じる残余利益(residual profit)を算出します。次に、(2)residual profitを、販売市場関連の利益とその他(技術的なノウハウ等の無形資産など)の利益に分割し、最後に(3)販売市場関連の利益を、該当する各国で(売上高等に比して)配分します。つまり、各国での配分対象となるのは、residual profitの内販売市場関連の利益に限定されますので、現在フランスが開始したような、国内売上全体に対する課税に比べ販売市場各国で課税できる額は限られると予想されます。また、利益の配分方法として、routine profitの算出やresidual profitを販売市場関連とその他に分割する際の算出には移転価格税制における比較対象分析ではなく、より簡便法である固定レート(料率は未定)を用いるとされます。これは比較対象分析に要する多くの時間と費用が新課税権の適用を阻害しないようにとの配慮によるものですが、移転価格税制において、routine profitの算出やresidual profitの分割に固定レートを用いた簡便法は、企業の事情が個別に異なる中で極めて難しいとして適用されてこなかった経緯があります。世界各国が合意するような簡便法の料率を決めることは実際にはきわめて難しいと予想されます。

 (B)販売国に通常の利益を配分:この段階では、販売国においてresidual profitのみならず、販売機能に関するroutine profitも配分します。ここでも各国におけるroutine profitの算出は、紛争やコンプライアンス費用増加を避ける為、固定料率により行うとしています。

 (C)既存の移転価格算定方法に基づく追加的課税:上記(A)や(B)で得た課税対象利益が、自国での企業の販売活動等に鑑みて過少と判断される場合、この段階で各国は従来の移転価格税制に基づき追加の利益を認定の上課税します。但しその場合各国間で紛争が起きる可能性が高まることから、強制的仲裁制度などの紛争解決手段が強化されなければならないとします。

所見

 結局は、欧州も米国のパワーに屈したという事でしょうか。しかし、本来GAFAによるアイルランドやルクセンブルグなどの小国を使った大規模な節税を防止する為の筈だったDST対策が、結局このような、IT企業に対象を絞れず且つ限定的な利益しか配分できない案になってしまえば、世界中の税務当局及び企業が多大な準備の時間とコストを負担してまで本統一案を導入する意義があるのか、疑問視せざるをえません。

 (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

 (JAS月報2019年11月号掲載記事より転載)