2017年12月:国税庁が「移転価格事務運営要領」等の改正案を発表

        国税庁は2017年11月10日付で、ウェブサイトの新着情報ページにおいて「『移転価格事務運営要領』(事務運営指針)の一部改正(案)等に対する意見募集について」を公表し、移転価格税制の改正案に対するパブリックコメントを募集しました。

        主な改正点は、同ウェブサイト「案件の概要」にまとめられていますが、おおまかに以下の2点となります。

        1.グループ間役務提供取引に係る規定

        BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源浸食と利益移転の意)プロジェクトの最終報告書に基づき、多国籍企業におけるグループ間役務提供の内、低付加価値な役務提供について、 従来の独立企業間価格よりも簡易な算定方法が改正OECD 移転価格ガイドランに追加されました。OECD 移転価格ガイドラインに準拠する日本の移転価格税制も、上記改正との整合性をはかる必要が生じ、今般改正案となったものです。

        具体的には、以下の条件を全て満たすグループ間役務提供については、要した総コストに5%のマークアップを付した金額をもって独立企業間価格とみなします。

        イ.支援的な性質の役務で、企業グループの中核的事業活動に直接関連しない

         ロ.無形資産を使用していない

         ハ.重要なリスクにかかわっていない

         ニ.研究開発、製造・販売・原材料購入・物流又はマーケティング、金融・保険又は再保険、天然資源の採掘・探査又は加工のいずれにも該当しない

         ホ.同種の役務が非関連者との間で行われていない

         また、親会社が専ら自らのために行う国外関連者の株主としての活動(以下“株主活動”=役務提供には該当しない)の例も、改正OECDガイドラインにそって追加されました。具体的には、親会社の株式上場、連結財務諸表作成などが株主活動の例として追加されています。

         今般の改正案により、グループ間役務提供の独立企業間価格算定方法として、(1)移転価格分析を伴う従来の算定方法、(2)今般の5%マークアップを付す簡易算定方法の他、従前からの(3)役務に要した総原価のみを独立企業間価格とみなす方法も残っています。この(3)は、本来の業務に付随して行われた役務、あるいは(2)の簡易算定方法の要件を全て満たし、且つ当該役務提供が日本法人又は国外関連者の事業活動の重要な部分に関連していない場合に適用可能とされています。しかし、“本来の業務に付随して行われた役務”、或いは“事業活動の重要な部分に関連していない”の定義は明確ではなく、ある役務提供に対し上記3つの内どの算定方法を適用するかの判断はかえって複雑になったように思われます。本事務運営要領、又は別冊の移転価格参考事例集の改定等により、これら算定方法の使い分けに係る例示を増やすなどの明確化がのぞまれます。

        2.事前確認(APA)の手続きに係る規定

        近年、APAの実績のない新興国との間の二国間APAを希望する企業が増えていますが、このようなケースでは相手国の事情や経験不足によりAPA交渉が開始するまでに相当な長期間を要し、企業の負担が増加すると共に、予測可能性の確保が困難になっています。

        そのような状況下、今般改正案では、(1)相互協議相手国でAPA申出が受理されていないことにより当分の間相互協議開催が見込めない事案についてはAPA審査を保留する、

        (2)APA申出提出期限の翌日から3年経過しても相手国において申出が収受されてない、又は収受される見込みがない場合、申出の取り下げ又は日本向けユニラテラルAPAへの変更のいずれかをとるかを当局が企業に聴取し、3か月以内に企業から回答がない場合はAPAを行うことができない旨通知する、などの規定が追加されています。要するに、不稼働な繰越事案の在庫整理が主目的と思われます。

         なお本改正案のパブリックコメント募集期限は2017年12月10日となっています。

       (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

       (JAS月報2017年12月号掲載記事より転載)