2022年7月:日本の関連者間金融取引料率算定方法の改定(1)

国税庁は2022年6月10日付で、移転価格事務運営要領の一部改定を行いました。今回の改定も、OECD移転価格ガイドライン(以下OECDガイドライン)の改定を受けたものです。特に今回、OECDガイドラインとの間で乖離が生じていた金融取引に関する改定を行ったことで、日本の移転価格規則はOECDガイドライン(の日本語訳かと思えるほど)に更に近づきました。しかし今回の改定により、関連者間貸出利率の算定に関する従来の簡易ルールが撤廃され、海外子会社に貸出を行っている多くの日本企業が影響を受けると予想されます。また、債務保証取引に関する保証料算定の方法なども例示され、海外子会社の債務保証等を行っている親会社は注意する必要があります。以下、今回改定の中で注意すべき点を2回にわたりまとめます。

1.貸出利率の算定方法

(a) 改定前の事務運営要領

従来は、日本法人及び国外関連者が共に金融業を行っていない場合の関連者間ローン利率算定においては、以下(1)~(3)の優先順位での各方法の適用を検討するとしていました:

(1)国外関連取引の借手が、非関連者である銀行等から同様の状況(国外関連取引と通貨、時期、期間等が同様である事、以下同じ)の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率

(2)国外関連取引の貸手が、非関連者である銀行等から同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率

(3)国外関連取引に係る資金を、同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率

国外関連取引と同様の条件で実際に行われた第三者間の貸出取引及びその利率の検索が困難である事を反映し、従来は“付されるであろう”、つまり実際に発生していない銀行照会により提示された「みなし利率」でも認められる可能性があり、その中で(2)貸手が借りたであろう利率の適用も認められていました。更に、それも無ければ(3)のように国債の利回りでもよかったのですから、あくまで非金融企業に限ってという条件で、比較的簡易で適用しやすいものでした。

(b) 改定後の事務運営要領

従来の簡易ルールが撤廃され、代わりに以下の修正が行われました。

  • 金融市場において現実に行われる取引に依拠した市場金利等で、当該国外関連取引と通貨、時期、信用力その他の比較可能性に影響を与える要素が同様の状況にあり、比較対象取引として想定できる時は、そのような市場金利等を用いて想定した取引を比較対象とすることができる。
  • 上記要素の内信用力については、当事者の信用格付等を用いることができる。
  • リスクフリー利率(国債利回り等)にスプレッドを加算した利率等を用いることができる。
  • 銀行等に照会して取得した見積り上の利率又はスプレッドのような現実に行われる取引に依拠しない指標は市場金利等には該当しない。

(c) 改定のポイント及び問題点

  • 簡易な算定方法が全て撤廃されてしまったこと:確かに、借手とリスクが異なる貸手が借りたであろう利率や、リスクフリー率である国債利回りの使用については理論的に矛盾があったものの、非金融企業への宥恕措置とみられていたのが、そのような宥恕が無くなった事を意味します。
  • 銀行照会利率が「現実に行われる取引に依拠しない」として否定された一方、今回定められた「現実に行われる取引に依拠した市場金利等」も現実には行われていない取引である中、どういった市場金利等がこの「現実に行われる取引に依拠した」定義に該当するのか不透明です。
  • 国外関連取引と同様の状況にある市場金利を検索する為の比較要素(通貨、時期、信用力等)の中で、信用力については、当事者の信用格付等を用いることができると明記されましたので、外部格付機関の格付けを得ている企業については信用格付に基づいた利率の算定が事実上必要になってきたと考えられます。しかし、格付を得ていない中小企業についても、外部格付機関が販売している格付モデルなどを国税当局が購入し、それを基に推定格付及び推定課税が行われるリスクがあると考えます。(次号へ続く)

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2022年7月号掲載記事より転載)