2021年8月:国際的な合意が進むOECDのグローバル課税案

7月10日、(コロナ禍にもかかわらず)イタリアで開かれていたG20財務相・中銀総裁会議において、国際的な法人課税の新たなルールの大枠が合意されました。経済協力開発機構(OECD)が作成を進めているこのルールは2つの柱から成り、一つ(Pillar 1)は高収益な巨大企業の超過利益を世界の消費国に配分する案、二つ目(Pillar 2)はグローバル最低法人税率案です。元々OECDは、GAFA等の大手IT企業による巨額の租税回避対策として、それらIT企業が低税率国であげていた所得に課税できる、いわゆる「デジタル課税」の国際統一案作りを進めていました。今でもルールの表題は「経済デジタル化から生じる税務上の問題に対する2つの柱による解決案」となっていますが、内容的には、当初のIT企業を標的としたデジタル課税からほど遠くなりました。

1.OECDのデジタル課税案作成の変遷

  • 2013年7月にグローバルな租税回避防止に関するBEPS)アクションプランを発表、15のアクションプランの第1番目に「デジタル課税対策」を位置付けました(JAS月報2013年8月号参照)。
  • 2019年2月にデジタル課税の公開草案を発表、同草案においては、(1)「ユーザー参加」型提案、(2)「マーケティング無形資産」型提案、(3)「重要な経済的存在」型提案という異なる3つの案が紹介されました(同2019年4月号参照)。
  • 2019年10月、統一アプローチ案(Pillar 1)を発表。上記公開草案のうち、(筆者が最も懸念していた)米国発の(2)「マーケティング無形資産」型提案を実質的に採用しました(同2019年11月号参照)。
  • 2019年11月、デジタル課税のPillar 2としてGloBE (Global Anti-Base Erosion)と称する統一最低税率案を発表しました(同2020年2月号参照)。
  • 2020年10月、上記2つの柱に関するBlueprintと称する進捗状況レポートを発表、2021年半ばまでのグローバルな合意目標が示されました(同2020年11月号参照)。

2.今年以降の展開及び直近の合意内容

Pillar 2で決めるべき統一最低税率について、当初21%を主張していた米国が、反対する低税率国への妥協案として5月に15%を提案、合意に向けた流れが一気に加速しました。そしてOECDは7月1日、2つの柱に関して130ヵ国・地域の合意を得たとする追加合意内容を簡易な声明にて発表しました。

7/1 OECD声明における主な追加合意内容]

  • Pillar 1の課税対象は、売上200億ユーロ(約2兆6千億円)超の多国籍企業における売上高税引前利益率10%を超える超過利益部分が課税対象となります(但し施行後8年後に売上基準が100億ユーロ超に半減される可能性有)。当初はIT企業のみが対象であった筈が、昨年10月のBlueprintでは消費者向け事業を行う会社も含まれ、そして今回、採掘産業と(監督規制される)金融業のみが例外となりました(その他業種は全て対象という事)。
  • 上記の超過利益の20~30%(Amount A)が、当該企業が基本的に1百万ユーロ(約3億円)以上の売上をあげている国・地域(事務所・工場等の実体の有無は問わず)に売上高基準で配分されます。
  • Pillar 2(GloBE)の対象は売上高5億ユーロ(約975億円)以上の多国籍企業で、こちらは全ての業種が対象です(但し各国の裁量により、自国に本社があるそれ以下の売上高の企業への適用も可)。
  • 未定であったPillar 2における最低法人税率(実効税率)は“15%以上”と記されました。15%を下回る税率の国・地域に所在する拠点の所得を親会社が所属する国が15%との差額で合算課税できるという仕組と考えられます(現時点で詳細は未定)。
  • 但し低税率国に所在したり途上国等において優遇税率を適用されたりしているが事業の実体がある企業については、有形資産及び給与支払額の5%(当初5年間は5%)を実効税率の計算上所得から控除できるという救済制度が設けられます。
  • 適用年度:Pillar 1のAmount Aに対する国際的課税制度及びPillar 2は2023年からの施行予定です。またPillar 1の内、基本的な営業・販売業務から発生する利益(Amount B)についてもより簡易に課税されるべきであり、それに関する課税案作成等の作業は2022年末迄に行われるとしています。
  • 今年10月には残りの未決事項を含むより詳細な案が最終化されるとしています。

 

以上の通り、現在のOECD案は実質デジタル課税でなくなったどころか、まるで課税権の世界統一化へ向けたステップのようにさえ見えます。それはともかく、複雑な仕組みで過大な事務負担が予想されるPillar 1については、当面の対象企業は全世界でも100社程度のようですが、Pillar 2となると多くの日本企業も該当します。そうすると既存の外国子会社合算課税との関係はどうなるのか、等々疑問はつきません。次号以降に所見を述べたいと思います。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2021年8月号掲載記事より転載)