2021年11月:グローバル課税案の進展/各国で税率引き上げの動き

1.グローバル課税案の進展

先月(10月号)でも紹介したOECD主導のグローバル課税案は、10月8日付でOECDより、136ヵ国により承認が得られたとするステートメントが発表され、更に詳細が固まりました。同ステートメントでは、主に以下の点が更に具体化されました。

(Pillar 1)

  • 企業が一定の売上をあげている国に配分する金額(Amount A)は、売上高税前利益率10%超部分の25%(前回までは20~30%)と決定されました。
  • 各国独自のデジタルサービス税(DST)は廃止及び今後も導入禁止と明確に記されました。

(Pillar 2)

  • 最低法人税率(実効税率ベース)が15%と決定されました(前回までは“15%以上”)。
  • 事業の実体がある企業の救済制度として、実効税率の計算上所得から控除できる額を、初年度の有形資産の8%及び給与支払額の10%から毎年一定率で減らし、10年後には共に控除率5%とします。前回までの「当初5年間は有形資産及び給与支払額の共に5%、5年後からは共に5%」よりも控除率が改善しましたが、これは低税率でハイテク企業等を優遇している中国などの主張を受け入れたものと言われています。
  • 本Pillar 2の課税を除外される小規模国の基準が、売上10百万ユーロ(約13億円)未満及び利益1百万ユーロ未満と規定されました。

これらの詳細なガイドラインは未だ作成中ですが、少なくとも現時点の内容から、特にPillar 1においては、市場国に配分される利益は売上高利益率10%超部分の更に25%のみとなり、また売上の一定割合に課税される筈であった各国独自のDSTがなくなることで、GAFAをはじめ巨大デジタル企業にとっては大勝利といえるでしょう。但し、Pillar 2において、軽課税国であげていた利益に15%で課税されることは痛手と思われますが、GAFAなどはアイルランドなどの軽課税国に施設や従業員など実体を擁して事業を行っているので、給与課税や有形資産の控除でPillar 2の15%合算課税についてもかなり軽減される可能性があります。いずれにせよ、節税とは無縁の地道に事業を行っている多くの多国籍企業にとって、Pillar 1、2共に税制が更に複雑化されるだけの迷惑な存在でしかないでしょう。

 

2.税率引き上げの動き

 グローバル課税案に関してメディアでは「税率引き下げ競争が転機を迎えた」などと紹介されていますが、それを裏付けるような報道が最近続いています。コロナ禍で各国とも感染予防、経済対策等で莫大なお金をつぎ込んでおり、元々増税ニーズが高まっている所、このようなグローバル課税案も増税への流れを後押しています。「金融所得課税の強化」や「分配」が言われはじめた日本も、例外ではないと思われます。しかし、コロナ禍からの経済回復が十分でない中での増税実施は経済に更なるダメージを与えてしまうと懸念する向きも少なくありません。以下の国のみならず、今後も各国の動向が注目されます。

  • 米国

9月13日に下院歳入委員会の民主党メンバーが増税案を発表、連邦法人税率を現行の21%から最高26.5%へ、キャピタルゲイン税の最高税率についても現行の20%から25%への引き上げる等を含むもので、2022年1月から適用を目指しています。しかし、物価上昇や移民流入等の諸問題に対する実行力不足が際立つ現政権が増税を実現するには時間がかかるかもしれません。

  • インドネシア

インドネシア国会は10月7日、増税色の濃い税制改革法案を可決しました。VAT(付加価値税)の税率は、2022年4月に現行の10%から11%に、2025年までに12%に引き上げられます。また法人税率は2022年から予定されていた20%への引下げが撤回され、22%で据え置かれることになりました。更に、石炭火力発電所を標的とした炭素税も導入されます。

  • 英国

英国政府は、2021年度予算案(2021年3月発表)において、法人税率を1974年以来、約半世紀ぶりに引き上げると発表しました。2023年4月から適用が開始され、年間利益が25万ポンド(約40百万円)以上の企業を対象に、現行の19%から25%に引き上げられます。また9月13日には、国民保険料率の1.25%引上げと株式配当収入課税(1.25%)の導入案が下院で可決されました。

  • アルゼンチン

2021年6月に公布された改正所得税法により法人税が累進化され、大企業の法人税率が2020年度まで最高税率が25%だったものが、2021年度より35%に引き上げられました。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2021年11月号掲載記事より転載)