新着情報(2022年11月21日):国税庁が令和3事務年度の「相互協議の状況」を発表

国税庁は2022年(令和4年)11月9日、令和3事務年度(令和3年7月1日から令和4年6月30日まで)の「相互協議の状況」を発表しました。それによると、相互協議事案の発生件数は、前事務年度の185件から61件(33%)増加し246件となりました。その前の2事務年度(令和元事務年度及び令和2事務年度)は、新型コロナウィルス感染拡大(コロナ禍)の影響もあり発生件数は減少しましたが、コロナ禍が終息したとはいえない状況の中で、直近2事務年度連続で減少の反動か、大幅な増加を示し過去最多を更新しました。

(但し、令和2年度税制改正において連結納税制度が廃止され、グループ通算制度に移行したことに伴い、令和4年2月14日から相互協議の申立ての手続が変更されています。これらの申立てをまとめるなどして集計すると、令和3事務年度の相互協議事案発生件数は217件になるとのことです。)

一方処理件数については、前事務年度の155件から31件(20%)増加の186件となりましたが、過去最多の平成30事務年度(187件)には及びませんでした。発生件数が処理件数を大幅に上回ったことにより、繰越案件の件数は前事務年度の572件から60件(10%)増の632件となり、5事務年度連続で過去最多を更新しました。

相互協議事案のうち大部分を占める事前確認(以下“APA”)に係る事案については、発生件数は前事務年度の146件から42件(29%)増加し188件へ、処理件数は前事務年度の122件から8件(6%)増加し130件となりました。総件数、APAのいずれも、新規発生件数の増加に処理件数が追い付いておらず、繰越事案は毎年増え続けています。

 (1)繰越事案の地域別内訳

令和3事務年度末の繰越事案の数を国別に見ると、米国、中国、インド、韓国、ドイツの順となっており、この順位自体は前事務年度と変わりません。地域別では、アジア・大洋州が351件(前事務年度比+15件)、米州が138件(同+15件)、欧州(南アフリカを含む)が143件(同+30件)と一様に増加しましたが、2事務年度連続で欧州事案が最も大きな増加を示したことが注目されます。但し繰越事案全体としては、未だにアジア・大洋州事案が過半数(55%)を占めています。

相互協議事案全体に占めるAPAの割合をみると、米州では94%と高いのに対し、欧州では69%、アジア・太平洋では74%となっており、米州以外では移転価格をはじめとする課税事案が比較的多いこと、特に欧州の課税事案が大きく増えていることがうかがえます。

(2)処理事案1件当たりに要した平均期間

令和3事務年度の処理事案1件当たりに要した平均期間は、前年度の30.3か月から31.6か月へと増加しました。その内訳をみると、APA事案の1件当たりの平均処理期間は前年度の29.4か月から31.6か月へと増加した一方、課税事案の1件当たり平均処理期間は前年度の34.4か月から31.5か月へと減少しており、APA事案、課税事案がほぼ同じ平均処理期間となりました。

ちなみに、OECD非加盟国・地域との相互協議に係る1件当たり平均処理期間は44.0か月(前事務年度は43.2か月)となっており、中国、インドをはじめとするOECD非加盟国との相互協議事案が全体の平均処理期間長期化の原因となっていることがうかがえます。

(3)処理事案の業種別内訳(カッコ内は前年度)

製造業 約67%(約70%)、貿易・卸売・小売業 約20%(約14%)、その他 約13%(約15%)

(4)処理事案の対象取引別内訳(カッコ内は前年度)

棚卸資産取引 約46%(約44%)、役務提供取引 約31%(約31%)、無形資産取引 約23%(約25%)

(5)処理事案の移転価格算定方法別内訳(カッコ内は前年度)

取引単位営業利益法 約68%(約64%)、独立価格比準法約7%(約4%)、利益分割法 約6%(約3%)、原価基準法 約4%(約1%)、その他 約15%(約27%)