2019年3月:欧州各国が個別にデジタルサービス税導入へ
GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)等の巨大IT企業は、オンラインサービスの売上や利益の大部分をサービス提供地ではない低税率国にて計上している為、税引前利益に課税する法人税制では各国ともGAFA等が自国で大々的に活動してあげた巨額な利益に対して殆ど税金がとれていない状況です。そのような状況を打開するための手段の一つとして、それら企業が自国のユーザーに係るサービスであげている売上に対し直接課税するのがデジタルサービス税(Digital Services Tax、以下“DST”)です。「拠点なければ課税なし」という法人税の大原則に反するため、節税が通常行われていると考えられる特定のビジネスモデル(インターネット広告、交流サイトや販売仲介、ネットで収集された個人情報の販売等)、且つ一定以上の売上を有する大企業に課税対象を限定しているのが特徴です。
欧州各国におけるGAFA等の節税への批判の高まりを受け、2018年3月にEU傘下の欧州委員会において、GAFA等のEU域内売上の3%を課税するというDST指令案が提案されましたが、GAFA等の節税プラニングにより逆にメリットを得ているアイルランド、ルクセンブルクなど一部の加盟国の反対により最終化の目途がたっていません。そのような中、まずEU離脱を決めた英国が2018年10月に2020年4月からのDST導入を発表しました(JAS月報2018年12月号の筆者記事参照)。続いて同年12月にフランスとドイツが共同でEU指令案の緩和案(課税対象を広告収入のみに限定する)を発表したものの、結局フランスをはじめ主要国の一部は、程なく独自のDST導入を発表しました。各国のDSTとも、EU指令案をベースとしていますが、一部違いもみられるので、以下比較表の形で各国制度の概要を紹介します。
欧州各国DST制度の比較 | |||||
| 英国 | オーストリア | フランス | イタリア | スペイン |
課税対象 | 次の基準を満たす全てのデジタルサービス提供業者: ①全世界の収入が£500,000,000以上 ②英国でデジタルサービスから得た収入が£25,000,000以上 | 次の基準を満たす全てのデジタルサービス提供業者: ①全世界の収入が€750,000,000以上 ②オーストリアでデジタルサービスから得た収入が€10,000,000以上 | 次の基準を満たす全てのデジタルサービス提供業者: ①全世界の収入が€750,000,000以上 ②フランスでデジタルサービスから得た収入が€25,000,000以上 | 次の基準を満たす全てのデジタルサービス提供業者: ①全世界の収入が€750,000,000以上 ②イタリアでデジタルサービスから得た収入が€5,500,000以上 | 次の基準を満たす全てのデジタルサービス提供業者: ①全世界の収入が€750,000,000以上 ②スペインでデジタルサービスから得た収入が€3,000,000以上 |
適用範囲 | 英国ユーザーをターゲットとするインターネット広告収入、マーケットプレイス運営による手数料収入等 | ①インターネット広告、②オンライン小売業者、および③共有プラットフォーム等 | ①インターネット広告、②オンライン・マーケットプレイス、および③GAFAによる個人データの転売 | ①インターネット広告、②仲介サービス(交流サイト及びマーケットプレイス)、③インターネット上で収集および生成されたユーザーデータの転売 | ①インターネット広告、②仲介サービス(交流サイト及びマーケットプレイス)、③インターネット上で収集および生成されたユーザーデータの転売 |
税率 | 上記特定収入の2% | 上記特定収入の3% | 上記特定収入に対し金額に応じ最大5% | 上記特定収入の3% | 上記特定収入の3% |
実施日 | 2020年4月 | 未定(政府案発表のみ) | 2019年1月1日 | 官報に施行令を掲載(2019.4.30まで)した日から60日目より | 官報に施行令を掲載した日から3か月後より |
各国の制度を比較すると、英国が税率2%と最も緩やかである一方、フランスは最大5%(詳細は現時点で不明)と最も税率が高く、しかも今年1月に遡って施行と最も強硬です。しかしながら、全ての国において現時点ではDST案は議会の承認を得ていない等最終化しておらず、今後の動向が注目されます。また、ドイツが未だ独自のDST案を発表していません。ドイツはDSTにそれ程積極的ではないと言われていますが、その動向は今後欧州他国や他の地域へDST課税がどれほど広まっていくかに影響を与える可能性があり、その意味で要注目です。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2019年3月号掲載記事より転載)