2019年4月:OECDもデジタル課税への検討を本格的に開始

 先月の記事で取り上げた通り、欧州主要国は大規模な節税を行っているGAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)等大手IT企業に対し、EU統一案の最終化を待たず既に独自の課税案を打ち出しましたが、経済協力開発機構(“OECD”)も本格的に動き出し、2月13日付で「デジタル経済における課税の挑戦」と題した公開草案を発表しました。

 各国がそれぞれ独自のデジタル課税を行い出すと、二重課税をはじめとする国と企業の対立、国同士の対立・紛争など混乱が深まるおそれがあります。OECDのような権威ある国際機関が統一的なルールを定めそれに各国が準拠すれば、そのような問題を大幅に軽減するものと期待されています。

OECD公開草案の概要

 OECDの公開草案(以下“本草案”)は、主に2つのセクションから成っています。一つは、各国が自国で活動している企業に対し課税できる為の利益配分及びその算定方法について3つの提案を紹介しており、これが本草案の中核といえます。一方もう一つのセクションでは、その他の租税回避問題解決のための、低税率国の関連会社に対する支払の損金算入否認などの提案を行っています。欧米メデイアではこれらを第4の提案としていますが、これらはより一般的な租税回避防止策ともいえますので、本稿では最初のセクションの3つの提案の概要を紹介します。

(1) 「ユーザー参加」型提案

 本提案は、ソーシャルメディア・プラットフォーム(Facebookなど、以下“SMP”)、検索エンジン(Googleなど)及びオンラインマーケットプレイス(Amazonなど、以下“OMP”)の3つの高度にオンライン化されたビジネスモデルにおいては、多数のユーザーの能動的な参加により重要な価値が形成されていくとみなしています。例えば、SMPは多数の人がつながり、投稿することによって個人データが蓄積されていく、検索エンジンでは多数のユーザーの存在が公告の価値を高める、OMPでは多数のユーザーのレビューが購買に当たっての安心感を増し更に売上が伸びるといった具合です。そのようなユーザーの参加により生まれる重要な価値、及びそれら価値が生み出す利益を把握するため、本提案では移転価格税制において定められている残余分割法的アプローチを用います。具体的には、多国籍企業が生み出す通常の利益(routine profit)を利益全体から引いた後に残る残余利益(=超過利益、non-routine profit)を算出し、それをユーザーの活動ベースで各国に配分、各国はその配分された超過利益について当該企業が自国に拠点を持つか否かに関わらず課税できるというものです。

(2)「マーケティング無形資産」型提案

 この提案は、先程のユーザー参加型提案と異なり、デジタル経済がもたらすより広範な影響に対応する為、適用対象をGAFA等が当てはまる3つのビジネスモデルに絞らないとしています。よってGAFA等にとどまらずIT以外の多国籍企業、特にマーケティング無形資産(マーケティング・販売に係るノウハウ、顧客データ等)の価値が高いと思われる消費者関連製品のメーカー等への影響が考えられます。算定方法としては残余利益分割法的方法により超過利益を算出するまでは同じですが、本提案はそこから、超過利益をマーケティング無形資産に帰属するものとその他(通常は製造や技術に関する無形資産)に帰属するものに分け、マーケティング無形資産に帰属する超過利益のみを予め定められた方式(売上等)により各国に配分し課税対象とするというものです。

(3)「重要な経済的存在」型提案

 この提案では、多国籍企業が重要な経済的存在を有する国で(法人など拠点の有無を問わず)課税すべきという考え方に基づく提案です。「重要な経済的存在」の有無の判断は、その国での売上、データ量、現地通貨での請求、現地語でのウェブサイト運営等複数の要素により判断されます。課税方法は、多国籍企業の全世界売上×全世界利益率で全世界課税所得を算出し、それを売上、資産、従業員数等の要素により各「重要な経済的存在」である国に配分し、各国で課税します。つまり、上記2つの提案と異なり本提案は残余利益分割法を用いず、予め決まった売上、資産等の数字で利益全体を各国で分けてしまおうという、簡素ですがやや粗雑な方法といえます。

今後の見通し及びコメント

 GAFA等へのデジタル課税については、EU統一案でさえ一部の国の反対により成立のメドがたっていない中、世界中が納得できる統一案をまとめるのはOECDといえども相当困難と思われます。現に本草案における3つの提案の内(1)が英国案、(2)が米国案、(3)がインド案と言われており、現状は主要国の対立する主張を並べてアレンジしている程度で、ここから統一案が出来るには相当な時間を要するでしょう。中でも特に注意が必要なのは(2)で、抽象的な概念であるマーケティング無形資産に帰属する超過利益の算出は実務的に困難な方法と思われます。また、自国の企業であるGAFA等が追加の税金を払って企業体力が弱まるのを嫌う米国がデジタル課税攪乱の為に出してきた提案のようにも見えます。少なくとも、ターゲットであるべき大手IT企業以外の、しかも節税していない企業まで対象となる可能性は排除しなくてはならないと個人的には考えます。

 (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

 (JAS月報2019年4月号掲載記事より転載)