2019年9月:Amazon.com移転価格課税訴訟-控訴審でも勝訴

 米国シアトル市に本社を置く世界的なオンライン販売サイト運営会社であるAmazon.com(“アマゾン”)が、米国で受けた巨額の移転価格追徴課税を不服として内国歳入庁 (“IRS”)に対し提訴した課税取消し訴訟は、租税裁判所(2017年3月23日)に続き、控訴裁判所(2019年8月16日付)でもアマゾンが勝訴しました。

1.背景及びIRS課税の概要

 本件は、アマゾン米国本社が欧州統括拠点であるルクセンブルクの子会社Amazon Europe Holding Technology (“AEHT”)から2005年と2006年の2年間に受け取った既存の無形資産譲渡の対価(“buy-in対価”)が過少であったとして、2012年11月にIRSが約22億US$(約2,300億円)の所得更正と、それに伴う234百万US$(約250億円)の追徴税額支払をアマゾンに命じたものです。

 具体的には、アマゾングループの欧州事業において、欧州の文化や消費者の購買嗜好等に合わせて欧州独自で開発を進めるため、2005年に米国本社がAEHTとコストシェアリング契約(Cost Sharing Agreement、以下“CSA”)を締結しました。CSAに基づき、AEHTは今後の研究開発費やマーケティング費用を分担する代わりに、それらの投資から上がった収益を費用分担の割合に応じて得ることになりました。但しAEHTは、米国本社が2004年以前に開発したインターネット販売に関するノウハウ等の無形資産(“既存の無形資産”)からも便益を得るため、それについては米国本社に使用料(ロイヤルティ)を支払う必要がありますが、既存の無形資産を使用割合に応じて買取ればロイヤルティを支払う必要はなくなります。米国本社とAEHTは後者(既存の無形資産買取り)を選択し、buy-in対価を216百万US$(約230億円)と算定しました。

 これに対しIRSは、アマゾン米国本社は自らが有する既存の無形資産の価値及びbuy-in対価を過小評価し、所得を米国からルクセンブルクに移転したとみなし、アマゾンの自社評価額より遥かに大きくbuy-in対価を算定し、巨額の所得更正が生じました。

2.租税裁判所でアマゾンが勝訴

 米国租税裁判所は、アマゾンの提訴を受けてから4年以上を経て、アマゾン側の主張を認め、IRSの課税処分を取り消す判決を下しました。主な争点は、やはり既存の無形資産の価値の算定方法に係る部分でした。IRSは、アマゾンが算定したbuy-in対価算定には、革新をもたらす企業文化、既存の従業員の貢献価値など、第三者間では譲渡不可能な“残余事業無形資産”を含めるべきとしました。一方アマゾンは、そのような無形資産は2009年の税制改正以前のCSA規則では明記されておらず、(本件対象年度の2005・2006年度においては)第三者間で譲渡可能な無形資産のみが算定されるべきと主張しました。租税裁判所は、IRSが主張するそれら残余事業無形資産は無形資産と定義し難いと退け、アマゾンの主張を認めました。

 またIRS側は、アマゾン本社が開発した既存の無形資産は永続的価値を有するとの前提に基づき、DCF(ディスカウント・キャッシュフロー)法によりbuy-in対価を高額に算定しました。それに対してアマゾンの主張は、ウェブサイト関連をはじめとする無形資産は技術進歩が急激であり、既存の無形資産(2004年以前)の償却年数はカテゴリーにより7年またはそれ以下と主張していました。判決では、償却年数をカテゴリー毎に8年~20年と、アマゾンの主張よりは長めに決定したものの、永続的であるとのIRSの主張は退けられました。

3.控訴審判決における微妙な変化

 本件課税処分年度である2005~2006年当時の米国移転価格規則においては、無形資産は、「(1)特許・発明・ノウハウ等、(2)著作権等、(3)商標等、(4)フランチャイズ・ライセンス等、(5)プログラム・システム・顧客リスト等、(6)その他類似するもの、のいずれかに属し、且つ本体のサービスと切り離しても高い価値を持つ資産」と定義されています。IRSは、アマゾンの残余事業無形資産は上記“(6)その他の類似するもの”に属すると主張していましたが、控訴審では、そのような不明確な定義についての類推は認められないとのアマゾンの主張を支持し、IRSの主張を退けました。

 但し租税裁判所判決では、IRSの手法を経済的実体にそぐわない恣意的な方法と批判しており、これらの手法のベースになっていると思われる2009年改正の現CSA規則自体が批判の対象となっているという印象を受けましたが、控訴審の判決は、あくまでも本課税処分は2009年改正規則の対象外であるからIRSの処分を違法としたようにも見えます。よって、IRSが2009年度以降についてアマゾンに対し本件と同じ手法により更に巨額の課税を行う事までは否認されていないようにもみえますので、今回の勝訴にも関わらず、アマゾン側にとっても不満の残る判決ではないかと個人的には推測します。