2019年10月:OECDが2018年度の相互協議統計を発表

 経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development、以下“OECD”)は、2018年二国間相互協議統計(Mutual Agreement Procedure Statistics for 2018)を9月16日に発表しました。

 例えば日米間の関連会社間売買取引に関して、米国子会社に対し「日本からの輸入価格$100が高すぎる」としてIRSが価格を$80に下方更正する移転価格課税を行った場合、米国子会社の所得は$20増え法人税が約$5追徴されますが、日本では既に過去に$100で申告済のことから、二重課税状態が生じます。このような二重課税状態について、日米間のように相互協議の条項が存在する租税条約が締結されていれば、納税者の申請により、両国政府当局間で二重課税を排除する為の相互協議を行ってもらう事ができます。

 相互協議における二重課税の排除方法は当局間の交渉次第であり、例えば上記の例では、米国IRSが主張する価格$80を正しいと日本の国税庁が認めれば、日本側で$100から$80への対応的調整(減額更正)が行われ税金が還付されます。あるいは日米共に少しずつ妥協し価格$90で合意すれば、日米両国で対応的調整が行われます。しかし両国は租税条約上、相互協議によって二重課税排除を「解決するよう努める」義務を負うものの、解決する義務自体までは負っていないことから、協議が決裂し二重課税が排除されない事もあります。

 2016年より、非OECD加盟国を含む主要各国はOECDが対BEPS(Base Erosion and Profit Shifting、税源侵食と租税回避の意)プロジェクトにおいて定めた共通基準に基づいて相互協議の件数を報告しています。よって2016年以降に発生した相互協議については各国間での数字の不整合やダブルカウントの問題が解決され、より信頼性の高い統計結果が可能となっています。

2018年度統計の概要(2017年度との比較)

(1)全世界の発生件数

 相互協議の件数は、移転価格、及びそれ以外の課税案件は「その他」と一括で表示されています。これほど移転価格課税が多いのは、やはり移転価格は更正額及び追徴税額が全般的に大きく、時間とコストのかかる相互協議を使ってでも二重課税を解消したいというニーズが高いことがあげられます。

 その移転価格に関する相互協議の発生件数は、2018年は前年比20%近く増加しました。これは、対BEPSプロジェクトを受け各国で移転価格税制の大幅改正と税務当局による執行が強化され、世界的に更正課税が増加している事を示しているといえます。

 

(2)国別の発生件数内訳(上位5ヵ国)

 経済規模からいえば米国、中国、日本あたりが上位にありそうですが、上位5ヵ国は全て欧州であり、実は相互協議は欧州諸国間で非常に多く活用されていることがわかります。国が近いので当局間の協議も頻繁に行えますし、何よりも文化的に近い先進国同士なので、協議もスムーズに進むものと予想されます。2018年も上位5ヵ国の欧州諸国における発生件数はいずれも増加した一方、米国(6位、253件)では前年より15%減少しました。

 ちなみに、2018年度の日本の相互協議発生件数は33件(22位、前年比+7件)、中国は24件(27位、前年比-14件)と、欧州諸国に比べると相当少ない件数となっています。なお、日本は二国間移転価格事前確認(APA)の相互協議件数は多く、2017事務年度でも166件発生していますが、本統計ではAPAに係る相互協議件数は含まれていません。

 

(3)2018年度に終了した移転価格の相互協議に関する平均期間(日米比較)

 相互協議に要する平均期間は、日本は米国よりは短いものの、OECDが勧告する24ヵ月(2年)以内を大きく超えているのが現状です。

    (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

    (JAS月報2019年10月号掲載記事より転載)