2018年9月:OECDによる金融取引の移転価格ガイダンス草案(2)

        先月に続き、OECDが2018年7月3日に発表した金融取引に関する移転価格ガイダンスの公開草案の後半に関する概要を紹介します。

        (ヘッジ取引)

        関連者間取引に関する為替・価格変動リスク対策として、先物、オプション等のヘッジ取引を本社等特定の拠点で一括して行う場合、それらヘッジ取引を行う拠点は各拠点に対しサービスを提供している為、その対価として独立企業間サービスフィーを徴収する必要があると本草案では述べています。但しサービスフィーの具体的な徴収方法については述べられていません。

         また本草案では、グループ全体でリスクがヘッジされていても個々の企業ではリスクが残る形になっている場合に移転価格上の問題点が生じると指摘していますが、それ以上の具体的記載はなく、コメントを求めるにとどまっています。

        (保証取引)

        本草案では、子会社が銀行から融資を受ける際に親会社が銀行に対し子会社の債務履行を保証する、関連者間取引では最も一般的な金融保証取引に焦点を当てています。

        保証がもたらすメリットとしては、主に借入人の信用格付け向上、借入額の増加、借入金利の低下があげられます。一方保証の形態としては正式な保証、暗黙の保証(経営指導念書等)、及び (関連者間でお互いの債務を保証し合う)相互保証取引がありますが、保証料を払うだけのメリットを借入人にもたらすのは正式保証のみと思われる事、また、時には正式保証でさえもフィー支払を正当化する程のメリットをもたらさない場合がある事などが述べられています。

        金融保証取引に関する移転価格算定方法として、本草案では主に①CUP(Comparable Uncontrolled Price)法と②イールド・アプローチについて述べられています。その内CUP法は、比較可能な第三者間保証取引の料率を用いる方法であり、適用可能であれば最も信頼性が高いものの、実際には関連者間取引と比較可能な条件を有する第三者間金融保証取引の検索は困難であり、適用が難しいという問題点があります。またイールド・アプローチは、保証がある場合と無い場合の借入利率の差分を最大限の保証料率とする方法であり、その差分を超える保証料率を支払うことは(借入人にとって保証がない方が支払合計は少ないという矛盾を生じる為)独立企業間料率とはいえないとしています。

       (キャプティブ保険取引)

       日本では未だ非常に少ないのですが、米国では非常に多くの企業(5千社以上)が自らの保険子会社(キャプティブ)をバミューダなどに設立し、リスクマネジメントの多様化・強化等をはかっています。多くの国では国外の保険会社と直接契約できないので、国内の損害保険会社を経由してキャプティブに再保険を付保し、キャプティブがリスクの相当部分を引受けます。そのように第三者を経由した取引でも、実質的には関連者間取引として移転価格税制等の対象となります。

       本草案では、移転価格上キャプティブとの取引が実質的に保険目的の取引であるかが問題(偽装の保険取引なら否認)であり、それを判断する為の基準として、キャプティブが以下6つの独立保険会社の基準を満たしているかどうかが問われるとしています:(1)引受リスクの分散化、(2)グループ外リスクの取込又は外部への再保険付保、(3)自己資本規制など必要な保険監督規制下にある、(4)第三者の保険会社でも付保可能なリスクである、(5)キャプティブ自身が保険引受能力を有する、(6)引受けたリスクに関する損害発生の可能性が本当にある。

        移転価格算定方法としては、CUP法が推奨されており、具体的には (1)保険事業収益力を示すcombined ratio(保険料収入/(保険金支払+事業費用))と(2) 対資本投資運用収益率を合計した合算営業利益率を、キャプティブと独立した保険会社との間で比較すべきとしています。その際、独立した保険会社の方が規制上高い自己資本比率を通常要求されるので、キャプティブの自己資本比率は独立企業間水準に合わせて調整されるべき(つまり、分母の自己資本を増やし、投資運用収益率を下げる方向に調整すべきという意味と考えられる)としています。

        しかし、このようなCUP法に基づく方法は、そもそも比較可能な第三者間取引を検索することが難しい中、キャプティブが引き受けるリスクは通常自社グループのみのリスクであり、独立した保険会社の取引に係る分散化されたリスクと異なります。従って上記のようなキャプティブと独立保険会社の合算利益率データを比較する方法は、実際の適用はきわめて困難と筆者は考えます。

        他、本草案では保険数理分析を用いた方法も移転価格算定方法として有効であろうとしていますが、これについてはそれ以上詳細な記述はなく、コメントが求められています。

         (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

         (JAS月報2018年9月号掲載記事より転載)