2018年8月:OECDによる金融取引の移転価格ガイダンス草案(1)

        OECDはこれまでBEPS(Base Erosion and Profit Shifting、課税ベース侵食と所得移転の意)対策プロジェクトの成果として文書化をはじめ移転価格関連の改正ガイダンスを次々に発表してきましたが、当初予定よりも遅れに遅れ最後まで残ったのが金融取引でした。その待望の(関連者間)金融取引に関する移転価格ガイダンスの公開草案が2018年7月3日に発表されました。金融取引自体の複雑性と多様性、及び国・地域による取扱いの違い等を考慮して、本草案はnon-consensus(コンセンサスを得ていない)公開草案となっており、草案中多くの箇所で意見募集が行われています(期限9月7日)。よって寄せられた意見次第で最終ガイガンスの内容が変わってくる可能性もありますが、金融取引に関する初の包括的なガイダンスであることから、草案段階でもこれを基に税務執行を行ってくる国が出てくる可能性もあります。計43ページに及ぶガイダンスである本草案の概要を、今回から2回にわたり簡潔に紹介します。

       取引実態を正確に把握

       関連者間の融資取引の中には、第三者間であれば出資(資本)取引として行われるべきものが含まれている可能性があるとの観点から、金利の算定の前に独立企業間融資額(第三者の貸手が借手の信用状態等から妥当と判断する額)を算定すべきであり、その金額を上回る額は融資取引として認識されないだろうとしています。

       財務管理機能(Treasury function)

       多国籍企業において、グループ間金融取引の金額、利率など条件を本社や特定の拠点で集中的に管理している場合があります。程度の差こそあれ、そのような集中財務管理機能(centralized treasury function)を本社等が有している企業は多いとした上で、当該機能は通常、既存のOECD移転価格ガイドラインにおけるサービス取引に該当するであろうとしています。

       算定に当たって検討する条件

       上記の財務管理機能に係る金融取引の算定・条件決定にあたって検討すべき要素が主要な取引毎に示されています:

        (融資取引)

    • 信用格付:第三者間であれば貸手は借手の信用格付をチェックするであろうことから、(関連者である借手と同条件の信用格付を有する)比較対象取引の選定が望ましいとしています。但し子会社等グループの一員であることの信用格付への(通常プラスの)影響を考慮する必要はあるとしています。

    • 価格(利率)算定方法:融資取引は市場データが多く存在する為、CUP法(借入利率自体を比較する方法)の適用が比較的容易であるが、資金調達コストに上乗せするマージンを比較する方法の適用も可能である、但し銀行の意見書(〇〇社には××%で貸せる等銀行の意見を記した書面)は独立企業間価格算定には使用できないとしています。

         (キャッシュ・プーリング取引)

         キャッシュ・プーリングとは、企業グループ内の世界中の各拠点に散らばっている口座から資金を特定の口座に移し、そこで集中して管理することにより、グループ全体の資金流動性管理を効率的に行うシステムを指します。

         キャッシュ・プーリングには主に2つの取引形態があり、一つは実際に資金がcash pool leader所有のマスター口座に移動し、資金過不足の調整など集中管理されるphysical pooling、もう一つは実際の資金移動は伴わず、資金移動が行われたとみなして銀行の金利計算や記帳が行われるnotional poolingです。

          本草案では、上記取引形態の他、詳細な機能分析を通じてキャッシュ・プーリングによるベネフィットの額やそれがどのように各参加者に配分されているのか等、取引実態の正確な把握が必要としています。その上で価格算定方法としては、一般的にはマスター口座を有するcash pool leaderの役割は各拠点間の調整・仲介に過ぎない(実際の資金移動等は銀行が全て行う)ので、それら限定された機能に対しては限定的なサービスフィーの支払が妥当であるとします。但しcash pool leaderが日々の移動資金額や金利を決定する、あるいは信用リスクを負うなど重要な機能リスクを担っている場合は、キャッシュ・プーリングにより得られたベネフィットの相当部分の配分を得ることが妥当としています。

        次に、キャッシュ・プーリングにより得られたベネフィット(本来銀行が得る預金金利と貸出金利の差)の各参加者への配分については、取引実態に応じて、(i)全ての参加者の金利を向上させる(貸出金利上昇及び借入金利低下)、(ii)全参加者の金利を同一化する、(iii)マスター口座の預金者であるcash pool leaderが(重要な機能リスクを負う場合)全ベネフィットを得る、の3通りの配分方法があるとしています。~(次号に続く)~

          (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

          (JAS月報2018年8月号掲載記事より転載)