2018年6月:役務提供取引に関する移転価格税制の改正(2)

       前月号では、移転価格事務運営要領の今般改正に関して、海外子会社等に対する活動がそもそも役務提供に該当するかという点に関する取扱いを整理しました。役務提供に該当しなければ対価の徴収は必要ありませんが、役務提供と認定されれば徴収が必要となり、その場合はいくら徴収するか、つまり対価の算定方法が問題となります。今回は、その対価算定方法に関する改正点の概要、及び現在の取扱いに関する問題点について述べます。

         2.新たに追加された簡易な算定方法

        移転価格税制における関連者間役務提供取引の価格算定方法としては、通常は独立価格比準法、原価基準法及び取引単位営業利益法の3つのうち何れかが用いられます。但しこれら3つの算定方法は、比較対象となる第三者間取引又は現地の比較対象企業を選定し、それら比較対象に準じた価格を設定しなければならず、算定作業には時間、費用及び経験を要します。しかし、役務提供取引には製造技術支援、経営支援など少額で且つ補助的・付随的な取引が多く、それらを時間と費用をかけて分析するのは多くの企業にとっては割があわない中、一定の場合には簡易な算定方法を認める規則が新たに制定されました(移転価格事務運営要領3-10(1) <以下番号のみ>)。具体的には、以下の要件を全て満たす役務提供の場合、それに要した総原価(直接費及び合理的に配賦された担当部門・補助部門の間接費の合計)に5%のマークアップを加算した額をもって独立企業間価格と認められます:

    • 支援的な性質の役務であり、企業グループの中核的事業活動に直接関連しない。

    • 無形資産(自ら保有又は使用許諾を受けたかを問わず)を使用していない

    • 重要なリスクに関わっていない

    • 研究開発、製造、販売、原材料購入、物流又はマーケティング、金融、保険・再保険、天然資源採掘、探査又は加工の何れにも該当しない

    • 同種の役務を非関連者との間で行っていない

    • 取引当事者の名称・所在地、役務の内容、総原価及び対価の算定過程、契約内容等々を記した書類を保存している

        ちなみにこの5%マークアップ法は、日本の移転価格税制が準拠するOECD移転価格ガイドラインの改正に伴い制定されたもので、日本の税務当局が能動的に定めた規則ではありません。

       3.既存の簡易な算定方法

        一方、既存の簡易な算定方法、すなわち上述した総原価の額(つまり+5%のマークアップをしない)を独立企業間価格として認める方法(以下“総原価法”)に関する規則(3-10(2))は依然残っています。これは役務提供のうち、本来の業務に付随して行われた業務(例として、海外子会社から製品を輸入している日本法人が当該海外子会社の製造設備に対して行う技術指導が掲げられています)について税務調査を行う場合には、総原価法の適用を検討するとなっています。但し、役務提供に要した費用が法人全体の費用総額の相当部分を占める場合、又は役務提供を行う際に無形資産が使用された場合は「付随して行われた」に該当しないとしています。

         また、新設された3-10(3)では、前記3-10(1)の要件(書類の整備以外)を満たし、且つ当該役務提供が日本法人又は国外関連者の事業活動の重要な部分に関連していない場合は、税務調査において総原価法の適用を検討するとしています。

        4.問題点

        国税庁は本改正に関するパブリックコメントへの回答の中で、5%マークアップ法は通常の算定方法に代替する簡易な方法として納税者である法人が選択できるものである一方、総原価法は税務調査の際に税務当局が適用するための方法で、納税者が税務調査前に総原価法を選択するものではない旨示唆しています。しかし、それでは3-10(1)以外の役務提供、例えば3-10(2)の付随的な役務提供については、法人が選択できる簡易な方法はない事となりますが、実際には多くの企業がそのような役務提供については総原価法で対価徴収を行っていると思われます。現実と規則とのギャップに矛盾を感じざるを得ませんが、少なくとも規則上はそうなっている事を認識しておく必要はあるでしょう。

         (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

         (JAS月報2018年6月号掲載記事より転載)