2020年2月:OECDが公表した「GloBE」案とは

GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)をはじめとする米国IT企業がグローバルな節税を行っており米国以外では殆ど税金を払っていない事に対しEU諸国は看過せず、フランスが率先して昨年から大手オンライン企業の仏国内売上の3%に課税するデジタルサービス税(DST)を導入したのに続き、イタリアも今年1月から類似のDSTを施行するなど、欧州各国に広まりつつあります。一方でGAFAのお膝元である米国は、そのようなDSTを「米国を狙い撃ちした不当な課税である」としてフランスなどに対し報復関税の発動を表明するなど、欧州と米国の対立も先鋭化してきました。

一方経済協力開発機構(“OECD”)は、そのような各国独自の課税による国家間の対立を防ぐ為国際協調的なデジタル課税案の作成を進めています。その第1の柱は、昨年10月9日付で発表したデジタル課税統一案であり、デジタル企業を含む消費者向け事業を行う大企業の所得を、主に販売市場の規模に応じて各国に定量的に配分し課税するという内容です(2019年11月号参照)。

更にOECDは、デジタル課税の第2の柱としてGloBE (Global Anti-Base Erosion 、グローバルな所得隠し防止の意)と称する提案を、第1の柱発表の1か月後の昨年11月8日に発表しました。これは要するに、世界統一の最低税率(global minimum tax rate)を設定し、大企業がそれを下回る低税率を享受している場合は追徴課税し租税回避を防止しようとするものです。但し各国の税制や税率の違いにもかかわらずそのような統一最低税率を導入する為には、まずは基本的な概念や仕組みに関する各国の理解と合意が必要なことから、今回のGloBE案では統一最低税率の数字の提示はなく、概念的な説明に終始しています。しかしこれを読むだけでも、統一最低税率の導入には租税条約や各国の税制の膨大な修正を要するなど障壁が多く、今後の合意や作業には相当の困難が待ちうけていると推測されます。しかもこのGloBE案は、第1の柱以上に広汎に非デジタル企業が対象になると考えられ、米国デジタル企業の租税回避防止という当初の目的からそもそも逸脱しているように思われます。

GloBE案の概略

(1)4つの構成要素

統一最低税率の適用を前提とするGloBE案では、課税手段として以下4つの構成要素を揚げています。

1.所得の合算ルール: 外国の支店や関連会社の所得に最低税率を下回る税率が適用されている場合、それらの所得を課税する。

2.過少課税の支払ルール: 関連者への支払(ロイヤルティ等)に関する適用税率が最低税率に満たない場合、控除の否認または源泉地国課税を行う。

3.Switch-overルール: 恒久的施設や不動産等から生じる所得に対し最低税率を下回る税率が適用されている場合、居住国の所得免除方式を税額控除方式に変換させる制度を租税条約に導入する。

4.課税対象ルール: 支払が最低税率を下回って課税されている特定所得項目に対し源泉地国での課税や租税条約の特典に関する調整等を行う。

(2)3つの課題

1.課税所得の算定: 課税所得の算定の際は財務諸表に用いられる会計基準を統一化した方が簡便であり、多国籍企業は親会社の会計基準(IFRS、US・日本基準等)で子会社の所得を算定するのが望ましい。財務上と税務上の所得の差異の調整は行う必要がある。

2.Blending(混合): a) worldwide(世界全体の税率を混合した合算税率が最低税率を下回っていれば課税)、b) jurisdictional(国・地域単位の合算税率が最低税率を下回っていれば課税)、c) entity(一企業単位で最低税率を下回っていれば課税)の3つのアプローチがある。Blending度が高い程コンプライアンス費用を抑えられるが、租税回避防止効果は弱まる。

3.Carve-outs(適用除外): 有形資産収益率、関連者間取引額、企業グループの規模等により適用除外のthreshold(閾値)を設定する必要がある。

今後の見通し

 上記の通り今回のGloBE案は概念的な説明と選択肢の紹介にとどまっており、あくまでも今後の議論のたたき台としての位置付けですが、報道によるとOECDは今年2020年中により詳細なGloBE案を発表する予定とのことです。それまでに統一最低税率の数値が公表されるか否かは不明ですが、いずれにせよGloBE案が今後本格的に進展することになれば、国際的な課税システムが根本から変革を迫られることになります。各国の税制や租税条約においても大幅な修正が必要になると思われ、経済界における混乱も予想されますが、そのような莫大なコストに見合ったデジタル企業の租税回避防止効果が、本当にこのGloBE案(統一最低税率)の導入により実現できるのでしょうか。世界的な権威であるOECDとはいえ、費用対効果を徹底的に検証した上で行動してほしいものです。

 (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

 (JAS月報2020年2月号掲載記事より転載)