2018年5月:役務提供取引に関する移転価格税制の改正(1)

       昨年の本月報12月号にて紹介しました移転価格事務運営要領の一部改正案ですが、ほぼそのままの形で最終化され、今年2月23日に国税庁により公表されました。今回は主な改正が役務提供取引、つまりサービス取引に関して行われましたので、本改正を機に役務提供取引の取扱いを改めて整理してみます。海外進出している日系企業の多くを占める製造企業や商社にとって、サービス取引はあくまで付随的な取引である事が多く、移転価格対策も後手にまわりがちですが、今般改正の中には注意すべき点が含まれています。

        1.役務提供に該当するか

        日本法人が行う経営、技術、営業等のサービス活動が、国外関連者に対する役務提供に該当すれば、その対価を国外関連者から回収しなければなりません。役務提供に該当するか否かの基準は、(1)当該活動が経済的又は商業的価値を有する、(2)非関連者が国外関連者に対して行う役務提供等と重複がない、(3)株主又は出資者としての地位に基づく活動ではない、の3点となります。3点いずれにも該当した場合は、役務提供として国外関連者から対価の回収が必要になります。具体的には:

        (1)(a)日本法人が当該活動を行わなかった場合に国外関連者が同様の活動を行う必要があるか、又は(b)非関連者間で、日本法人が国外関連者に行った活動と内容、時期、期間等同様な条件で活動が行われた場合に対価が支払われるかのいずれかに該当すれば、「経済的又は商業的価値を有する」と判断されます。これについては今般改正では微細な表現の修正があったのみで、根本的変更はありません。

        (2)日本法人が国外関連者に対し行う活動が、当該関連者が自ら行っている活動又は非関連者から受けている活動と重複があれば、日本法人の活動は基本的には役務提供に該当しません。

        (3)株主、出資者としての活動、いわゆる株主活動であれば、日本法人自らの為の活動であり、国外関連者に対する役務提供には該当しません。従前は、この株主活動の例として(a)親会社実施の株主総会開催や株式発行など親会社の法令に基づき行う活動、及び(b)有価証券報告書等を作成する活動の2点のみが提示されていましたが、本改正では以下(条文の概要)のように詳細に提示されています:

    • 親会社発行株式の上場

    • 株主総会開催、株式発行、その他親会社に係る組織上の活動

    • 国外関連者の会計帳簿監査を含む有価証券報告書作成又は連結財務諸表作成等、親会社の法令に基づく書類作成

    • 親会社が国外関連者に係る株式等持分取得の為に行う資金調達

    • 親会社自らの株主又は投資家向け広報

    • 国別報告事項(CbCR)作成その他、親会社が遵守すべき税法に基づく活動

    • 親会社が日本の会社法上行うコーポレート・ガバナンス(企業集団の業務の適正を確保する為の体制整備等)活動

    • その他親会社が専ら自らのために行う国外関連者の株主としての活動

         逆に、(3)株主活動に該当しない活動の例として、国外関連者に対して行う企画、緊急時の管理、技術的助言、日々の経営に対する助言が挙げられています。これらは従前とほぼ同じで、つまり親会社自らの活動ではなく国外関連者のための活動とみなされます。

        また、従前は(2)と(3)は(1)経済的又は商業的価値を有するか否かの定義の一部とされていましたが、本改正により独立した判定項目となりました。役務提供に該当するか否かの基準が厳格化したことは、税務当局の恣意的な執行の余地を無くするという意味で納税者にとっては朗報ですが、逆に言うと、(1)~(3)のいずれにも該当する、いわゆる役務提供活動を行っていると認められれば、今まで以上に厳格に国外関連者からの対価回収を税務当局から要求されるリスクが高まりますので、これまで以上の準備と対策が必要となります。

        次回(翌月号)は、本改正の目玉である、総費用+5%のマークアップという簡易な算定方法の適用が認められる場合についての新規則を中心に紹介します。

        (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

        (JAS月報2018年5月号掲載記事より転載)