2018年3月:関連者間貸出金利に関する留意点

         海外子会社の立ち上げや設備増強などの時に必要な資金を供給するため、それら海外子会社に対し出資のみならず貸付を行っている企業も多いと思います。そのような関連者間貸付の金利設定は、親会社が子会社の負担を軽減するため低く設定したり、或いは子会社の業績が親会社より良くなってくると、資金を回収する為高めに設定したりしているケースが時たま見受けられます。しかし関連者間取引は貸付であっても移転価格税制の対象となりますので、独立企業間で行われる料率にて設定する必要があります。

        日本の移転価格税制は、金融業に従事しない法人の関連者間貸付については簡便な算出規定を設けており、それに従って料率を設定すれば日本の税制を遵守することができます。特段新しい規則ではありませんが、以下改めて紹介します(但し、海外側の移転価格税制や過少資本税制等にも勿論留意する必要があります)。

         A.租税特別措置法通達66の4(7)-4(金銭の貸付け又は借入れの取扱い):

       本通達では、金銭の貸借取引について独立価格比準法と同等の方法又は原価基準法と同等の方法が適用されることを示唆し、且つそれらを適用する場合、比較対象取引に係る通貨が国外関連取引に係る通貨と同一であり、かつ、比較対象取引における貸借時期、貸借期間、金利の設定方式(固定又は変動、単利又は複利等)、利払方法(前払い、後払い等)、借手の信用力、担保及び保証の有無その他の利率に影響を与える諸要因が国外関連取引と同様であることを要することに留意することとしています。

        ここで言う独立価格比準法と同等の方法とは、関連者間取引と利率自体の比較が可能な、最も類似性の高い第三者間貸付取引の利率に関連者間貸付の利率を合わせる方法です。例えば海外子会社が日本の親会社と同じ通貨及び諸条件で銀行からも並行して借入を行っていた場合、その銀行借入利率が例えばUSD建3%であれば、同じUSD建3%にて借入利率を設定することができます。一方、原価基準法と同等の方法とは、例えば海外子会社が日本の親会社から借入を行う半年前に同じ通貨(USD)及び類似の条件(金利は共にLIBOR+0.5%)で銀行から借入を行いましたが、半年前はベースレートのLIBOR(インターバンク市場の調達レート)が現在よりも低かったとします。この場合LIBORレートの違いは問わず、マージン(スプレッド)が同じ0.5%であればよいという方法は、原価基準法と同等の方法による算定方法の一例といえます。

        注意すべき点として、どちらの方法でも通貨は金利により異なるため、必ず同一通貨でなければ比較はできないという事です。例えばUSD建貸付に円金利を適用する事はできません。

       B.移転価格事務運営要領3-7(独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法による金銭の貸借取引の検討):

       本事務運営要領(国税庁が発行する税務調査官向けの内部指針)では、日本法人及び国外関連者が共に金融業を行っていない場合の関連者間貸付において税務調査を行う場合、以下(1)~(3)に掲げる利率を用いた独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法の適用を検討するとしています(優先順位は(1)、(2)、(3)の順)。

       (1) 国外関連取引の借手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率

       (2) 国外関連取引の貸手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率

       (3) 国外関連取引に係る資金を、当該国外関連取引と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率

        先に紹介した措置法通達と本事務運営要領の違いは、前者が関連者間貸付全般を対象とするのに対し、後者は非金融業に特化した規定であること、及び後者は独立価格比準法と同等の方法ではなく、「に準ずる方法と同等の方法」と要件が緩和されていることです。具体的には、措置法通達では実際に銀行からの借入という比較取引の存在が必要でしたが、事務運営要領では、銀行借入または同通貨の国債運用が無くても、同条件で借入、運用を行った場合に付されたであろう“みなし利率”を適用すればよいことになります。

       その中で上記(2)は国外関連取引の貸手側のみなし借入利率の使用を可としており、厳密な比較可能性には問題があると思われますが、日本の税務当局はこの(2)を多用する傾向があります。特に円建貸付の場合、海外では銀行借入のベンチマークが乏しいと思われることから、日本国内の豊富な銀行借入データが活用できる(2)の適用が容易であることが理由と考えられます。

        なお(3)ですが、国債の運用利率は通常の銀行借入利率より低くなる傾向があり、特に日本国債は現在マイナス金利です。(1)及び(2)が使用できない場合の最後の手段として規則上は使用できるものの、マイナス金利を独立企業間利率として設定するのは実際には難しいと思われます。

       (執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

       (JAS月報2018年3月号掲載記事より転載)