2020年12月:コカコーラが巨額の税務訴訟で敗訴

世界的清涼飲料メーカーの米コカコーラ社が米国税務当局IRSから受けた巨額の移転価格課税の取消しを求めて2015年12月に米国租税裁判所に提訴してから約5年、11月18日付判決において、租税裁判所はほぼIRSの主張を認め、コカコーラ社が実質的に敗訴しました。

  1. 課税に至る経緯

コカコーラ社の原液製造拠点(世界7社)は、米国本社(以下“本社”)からライセンスを受けて原液を製造し、世界各地のボトラー(原液から飲料を製造し各地で販売する企業)に販売し利益を得る傍ら、原液の製法やCoca-Cola商標の対価としてロイヤルティを本社に支払っていました。その際、原液製造拠点に売上の10%をまず配分し、残りの営業利益を同拠点と本社とで折半する、いわゆる利益分割法(以下“10-50-50法”)が採用され、この結果に収まる範囲でロイヤルティが支払われていました。この10-50-50法について本社はIRSと1996年に協定を締結し、それ以降の税務調査でも2006年度までその適用が認められていました。

しかしIRSは、2007~2009年度を対象とする税務調査(2015年)において、10-50-50法の適用は独立企業間原則を満たしていないとして、協定に従わずCPM(Comparable Profits Method)という別の方法を適用、それにより選定した比較対象企業に比べて原液製造拠点の利益率は高すぎる、つまり原液製造拠点が本社に支払っていたロイヤルティが少なすぎるとして、更正所得額約94億$(約1兆円)、追徴税額約33億$(約3,500億円)という巨額の移転価格追徴課税を本社に命じました。

  1. 訴訟における論点

コカコーラ社が訴状の中で主張したのは主に以下の点と思われます:

(1)1996年に締結した協定をIRSが予告もなく一方的に破棄したのは違法行為である。

(2)IRSが適用したCPMは、子会社側が価値ある無形資産を持たない限定された機能リスクの企業である場合に適用可能だが、原液製造拠点は他社の販売費用を負担することにより、価値ある販売無形資産を経済的に保有している為、CPMは適切な方法ではない。

(3)仮にCPMが適切だとしても、原液製造拠点と、その原液を希釈し容器に詰めて販売するボトラーは明らかにサプライチェーンの段階が異なる為、ボトラーを原液製造拠点の比較対象としたことが不適切である。

(4)CPMが適切でない為、専門家に依頼し他に3つの方法で移転価格算定を行ったが、いずれも既存の(10-50-50法による)ロイヤルティ支払が移転価格上問題ないことを示している。

(5)配当支払額をロイヤルティ支払必要額から差し引く事ができるという規定が適用されないというIRSの主張は誤りであり、原液製造拠点が2007~2009年度の3年間で本社に支払った18億$(約1,900億円)の配当を課税所得から減じるべきである。

  1. 判決の概要とポイント

租税裁判所は判決文においてコカコーラ社の主張の殆どを退け、以下の通りIRSの主張がほぼ全面的に認められました。

(1)1996年にIRSと本社が締結した協定は無限に続く事を想定しているとは言えず、IRSが協定から離脱した判断を行う事は違法ではない。(2)原液製造拠点は販売費用を負担しているというだけで実質的に販売機能を有さず、価値ある販売無形資産を所有しているとはいえない。よってCPMは適切な算定方法である。

(3)ボトラーの容器に詰めて出荷するまでの工程は実質製造機能といえ、製造という機能面からは原液製造拠点と比較可能である。

(4)それら専門家の分析は全て妥当性を欠いている。例えば、マクドナルド、ドミノピザなどのフランチャイズ契約におけるロイヤルティ料率と同等の水準にあるという分析については、そもそも飲料メーカーとファーストフード・チェーンとの比較は不可能である。

但し(5)については同社が主張する配当額の控除が認められた為、課税所得額は18億$、追徴税額も推定約6億$(600億円強)減額される模様です。

 本判決のポイントは、アイルランドを主とする7社の原液製造拠点が実質的な役割に比して極めて高い利益率を得ており、しかも7拠点平均の実効法人税率は約6%とタックスヘイブン並みであった為、租税回避スキームとみなした所でしょう。ただ、本判決はIRS勝訴ありきで理由付けをしているように思われる所もあり、例えばIRSが協定を予告なく破棄した事の妥当性について納得のいく説明が行われているとは言い難いと思われます。

 コカコーラ社は「本判決は遺憾であり、控訴については判決文を精読した上で判断する」と述べましたが、2010年以降も同じ10-50-50法適用を続けていたとしたら、その後の年度も同じ手法でIRSに課税される可能性が高いので、巨大企業の同社であっても資金繰りへの影響は大きいでしょう。今後の展開が注目されます。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2020年12月号掲載記事より転載)