2021年1月:中国の直近(2019年度)APAレポートの概要

中国の国家税務総局は2020年10月29日付で、2019年度(2019年1月1日から12月31日まで)の事前確認(Advance Pricing Arrangement、以下”APA”)に関する第11回年次報告書を発表しました。

APAは移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間)との間で予め合意又は確認し、その後一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスク回避の最も確実な手段です。APAが世界で初めて制度化されたのは日本(1986年)ですが、中国も2009年度以降毎年APAレポートを発表しています。コロナ禍前の数字ではありますが、2019年度レポートの概要は以下の通りです:

(1)全般

2019年度におけるAPAの締結件数は前年度の8件より大幅に増加(+13件)し、2005年に中国が二国間APA制度を開始して以来過去最高の21件となりました。しかし、日本や米国の二国間APA締結件数が100件を超えていることに比べると未だかなり少ないといえます(但し日米は、ともに既存事案の更新件数が過半を占めています)。

内訳としては、一国向け(Unilateral)APAが12件と前年度から10件増えたのが大きく貢献しており、二国間APAについては前年度比2件増の9件にとどまりました。一国向けAPA、二国間APA共に更新事案は各1件であり、殆どは新規の事案となっています。

2APAの業種別内訳

2019年度に締結された21件のAPAの内9件は製造業の事案、9件は卸売・小売業、残り3件はリース業及び商業サービス業となっており、前2018年度は全9件が製造業の事案であったのに比べて業種が多様化しています。但し累計ベース(2005年度~2019年度)でみると、全締結件数177件の内製造業が141件と未だ大半を占めています。

3)二国間APAの地域別内訳

2019年度に締結された9件の二国間APAの内、6件が対アジア諸国、2件が対北米諸国、1件が対欧州諸国との事案です。累計ベースでは、2005年度から2019年度までに処理された二国間APA事案76件(内新規事案57件、更新事案19件)の内、対アジア諸国が50件と全体の66%を占め、対欧州が17件(22%)、対北米が9件(12%)となっています。

4)処理期間

2005年度から2019年度までに締結された177件の内89件(50%)は処理期間1年以内となっています。その他2年以内が48件(27%)、3年以内が17件(10%)となっており、3年超かかった事案は23件(13%)にとどまっています。中国のAPA締結件数は未だ日米などに比べるとかなり少ないですが、締結した事案については(他国に比べて)総じて短い時間で処理していることがうかがえます。但し、2019年度に締結された二国間APA9件の内、1年以内に処理されたのは2件にすぎず、且つ3年超かかったのは3件(33%)あることから、以前より二国間APAの処理期間が長期化する傾向にあることを示していると考えられます。

5)繰越事案とその内訳

2019年度末における税務当局による締結前の事案(申請意向を当局に提示した事案、及び申請済み締結待ちの事案)件数は計134件となっており、前年度末の104件から+30件増加しました。内訳としては、一国向けAPAは23件(前年度比+7件)、二国間APAは111件(前年比+23件)と、ここでは二国間APAの数が圧倒的に多くなっています。二国間APAに関する企業のニーズが強いことを示しているといえますが、この締結前件数の多さに比べて締結件数の少なさが目立つのも相変わらずです。中国では税務当局における人員不足から、二国間APAの正式申請前に予備会談、意向申請など複数のプロセスを義務付け、正式申請を受付ける件数をかなり絞っているといわれており、2019年末時点でも締結前件数111件の内69件が申請意向の提示件数であることから、これら件数の多くは正式の申請を税務当局に受理されないことが推測されます。

6)締結事案の対象取引別内訳(2005年度~2019年度累計)

有形資産取引 61%、 無形資産取引 17%、役務提供取引 22%

(無形資産及び役務提供取引の割合が年々増えています。)

7)締結事案の移転価格算定方法内訳(2005年度~2019年度累計)

取引単位営業利益法(対総費用営業利益率)46%、取引単位営業利益法(売上高営業利益率)32%、原価基準法10% 

(製造業の案件が多い事を反映し、製造業で多く用いられる対総費用営業利益率の使用が最も多い傾向が続いています。)

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2021年1月号掲載記事より転載)