2021年6月:EUが法人税単一化に関する提案を発表

5月18日、欧州連合(EU)の行政機関である欧州委員会(European Commission、以下“EC”)は、21世紀の事業税に関する通達(Communication on Business Taxation for the 21st century)と題する提案を採択し、同名の文書を公表しました。自ら“Proposes new, ambitious business tax agenda”(新しく野心的な事業税の議題を提案する)と表題に掲げており、EUが税の単一化の動きを加速させたい意図が伝わってきます。

1.本提案の概要

(1)目的

  • コロナ禍からのEUの回復を支援し、今後数年間にわたって十分な税収を確保するための長期的および短期的なビジョンを示す。
  • EUにおける持続可能で雇用機会豊富な成長を支援し、公平で安定した事業環境を構築する。

(2)単一の法人税

ECは2023年までに、EUにおける法人税の新しい枠組みとなるBEFIT(Business in Europe: Framework for Income Taxationの略)の提案を2023年に行うという目標を設定しました。本提案ではBEFITの詳細は明らかでなく、EU域内の2か国以上で活動する企業は、EU単一のルールに基づきEU連結損益作成及び単一の税務申告を行い、その後EU連結損益は加盟各国に何らかの方法で配分され、各国の法人税率により課税される、との記述にとどまっています。これだけみると、2011年3月に同じくECにより提案された共通連結法人税ベース(“CCCTB”)に関する指令案とほぼ同じにみえるのですが、BEFITを検討するにあたってCCCTB指令案は撤回されるそうですので、実際にはCCCTB指令案より更に単一化が“進んだ”案になることが予想されます。

CCCTB指令案の解説(JAS月報2011年4月号参照)の時にも述べましたが、域内の税務申告が一本化され、また域内連結損益の採用によりEU内取引に係る移転価格問題が無くなる見込みであることから、EU内の複数国で活動する企業にとってコンプライアンス費用の削減は魅力的でしょう。またEUの損益が通算され、ある国での損失で他の国での利益を相殺できれば、支払税額の総額も減ると予想されます。しかし低税率で企業を誘致しているアイルランドなどCCCTB指令案に反対していた国に対しどう対応するのか、その辺りに関するより詳しい提案が待たれます。

(3)大企業の実効法人税率公表

EUで事業を行う一定規模以上の大企業に実効法人税率を公表させる提案を2022年までに作成するとしています。

(4)節税防止案

  • Shell entity(抜け殻法人)の濫用を防止する規則案を2021年末までに作成するとしています。
  • デットファイナンスの方がエクイティファイナンスより節税になる状況を改める税制案を2022年第1四半期までに作成するとしています。エクイティファイナンスを促進し域内企業の財務健全化をはかるのが目的と述べられています。

(5)コロナ禍による損失の救済

損失に関する税務上の取扱いが各国により異なる現状を鑑み、特に中小企業救済の目的をもって、ECは2020年及び2021年に企業が出した損失をそれ以前の年度への繰り戻しを行えるようにするよう、各加盟国に対し即時に推奨しました。

2.所見

巨大IT企業の大規模な節税に対し世界中で批判が高まったことを契機として、OECDでは現在2つの柱の節税防止税務ガイドラインの作成が進んでいますが、EUの動きはそれらのグローバルな動きと歩調を合わせながら、税務申告の単一化というより一層踏み込んだ案を作成してきました。ただ、非常にラフな本提案を読む限りは、BEFIT案は以前からのCCCTB指令案と基本的に変わらないように見えるのですが、わざわざ法案の名前を変えてくることに何か意図があるような気もします。たとえば全くの推測ですが、単一税率の適用など、法人税の単一化を将来的に更に進める意図が隠されているかもしれません。そうなると各国の課税権をEU(EC)が奪うことになるので、全加盟国の同意が必要な法制化はきわめて難しいと思われますが、コロナ禍による経済・社会危機の進行度合いによっては、各国の債務救済とバーターで課税権がECに移るなどの事態が起こるかもしれません。日本もそうですが、とにかくコロナ禍を理由として政府のやる事何でもありの状況になってきていますので、我々納税者も行動が制限される中、より先をみて動く必要がありそうです。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2021年6月号掲載記事より転載)