2021年9月:中国がユニラテラルAPAの簡略手続に関する公告を発表

中国国家税務総局は2021年7月30日、ユニラテラルAPA(以下“ユニAPA”)のための簡易な手続きの適用事項に関する発表(国家税務総局公告2021年第24号)を公表しました。

APAは、移転価格算定方法について納税者と税務当局との間で予め合意又は確認し、一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスクを回避する為の最も確実な手段です。

本公告の主旨としては、中国税務当局のみが合意するユニAPAについて、今までよりも手続全体を簡略化及びスピードアップし、より小規模な関連者間取引に対しても門戸を開くことにより、ユニAPAの利用を促進しようというものと思われます。(本公告は、日中など両国間で合意される二国間APAには適用されません。)

本公告の主なポイントは以下の通りです:

1.適用対象

本簡易APA申請前の3年間の関連者間取引額(年間合計)が40百万元(約6.8億円)以上であり、且つ以下のいずれかを満たしていること:

(1)税法に則した直近3年度の移転価格同時文書を税務当局に提出した。

(2)本簡易APA申請前10年以内にAPAを実施済。

(3)本簡易APA申請前10年以内に移転価格の税務調査が終了済。

2.手続き

通常のAPAは全行程で6つのステップを要し、特に申請前に(1)当局との事前相談、(2)申請意向書の提出、(3)(当局による)分析と評価という3つのステップを経る必要があり、正式申請に至るまでのハードルが非常に高いものでした。それに対し本簡易APAでは全工程を(1)申請の評価、(2)協議及び合意、及び(3)監視及び実施という3ステップに集約し、前述の適用要件を充足していれば即申請が可能となることから、申請が大幅に行い易くなります。

3.手続きに要する期間

  • 税務当局は納税者の簡易APA申請書類を分析・評価の上、当該申請を受理するか否か決定し90日以内に納税者に通知します。申請を受理しない場合として、税務調査が進行中である、同時文書の作成や税務申告書における関連者間取引開示情報の報告を行っていない、申請後の当局からの追加資料請求や面談の依頼等に応じない、などが記されています。
  • 申請の受理後、当局は納税者との協議を経て6ヵ月以内に合意し、APAを締結します。但し、協議期間中に当局から追加・補足資料提出の要請があった場合、納税者がそれら資料を提出するまでの期間は上記6か月にカウントされないとしています。

4.その他

  • 合意に至った簡易APAは、申請を受理した年度以降3~5年間適用されます。
  • 当局との協議により簡易APAが合意に至らなかった場合、納税者は通常のユニAPAを再申請する事が出来ます(その際、既に当局に提出した資料は再提出の必要はない)。
  • 中国の2つ以上の管轄地域が関与する取引に関しては、当面簡易APAの申請は出来ません。
  • 本公告に規定がない事項については、既存のAPA規則(国家税務総局公告2016年第64号)が適用されます。
  • 本公告の発効日:2021年9月1日

(所見)

中国におけるAPA申請件数は日米に比べると大幅に少ないのですが、その主な理由として前述した正式申請までのハードルの高さがありましたので、今回の簡易APA導入による手続き面の緩和により、APAの件数を増やしていきたいという当局の意向があると思われます。納税者にとっても、税務調査よりも友好的に中国税務当局と今後3~5年間の価格設定を合意できるAPAを短期間(約9ヵ月)且つ比較的簡易に実行できるようになるということは、特に中国での税務リスクが高い納税者にとっては朗報と思われます。

但し、本件簡易APAは繰り返しになりますが、あくまでもユニAPAのみ適用されますので、相手国側(例えば日中間関連者間取引の場合、日本側)の税務リスクは何ら変わりません。逆にユニAPAの場合、中国側により有利な価格設定で合意されることもありますので、相手国側の税務リスクが(ユニAPA実行前よりも)高まる可能性もあります。それらを考えると、日系企業の中国拠点による本簡易APAの申請は、中国側の移転価格税務リスクが日本側に比べて明らかに高い場合に限った方がよいのではないかと考えます。いずれにしても、申請の検討にあたっては移転価格専門家に事前に相談することをおすすめします。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2021年9月号掲載記事より転載)