2021年10月:OECDのグローバル課税案に関する考察

今年8月号で概要を紹介の通り、経済協力開発機構(OECD)はG7やG20など主要国のバックアップを受けながら、多国籍企業に対する2つの柱から成るグローバル課税案の作成を着々と進めており、10月中旬までには最終案レポートが発行される予定となっています。そのようなレポート発行予定の直前のタイミングで恐縮ですが、今回はこのグローバル課税案による影響等について少々追加で説明させていただきます。

1.Pillar 1(一つ目の柱)について

Pillar 1は、巨大企業(売上高200億ユーロ超)の超過利益(売上高税引前利益率10%を超える部分の内20~30%に相当する部分)を、その企業が売上をあげている国の売上高に応じて配分しようとする案です。このPillar 1ができた背景としては、GAFAをはじめとする大手IT企業がその収益の多くを、彼らが実際に多くの顧客を持ちビジネスを行っていた国でなく、低税率あるいは無税の地域であげていたことがあります。そこから、少なくとも超過利益部分については実際に売上があがっている市場国に配分すべきであるという考えに基づいています。

しかし現在、Pillar 1の対象はIT企業のみではなく、採掘産業と金融業を除いた全業界が対象となっています。大部分の専門家は未だにPillar 1をデジタル課税案と呼んでいるものの、実質的には高収益な巨大企業全般に対する超過収益の強制再配分案であるといえます。また、GAFAの内アマゾンは利益率が低い為(2020年12月期の売上高税引前利益率は6.2%)、形式的には対象外となります。しかし、その中でもクラウド事業を運営するアマゾン・ウェブ・サービス(“AWS”)事業は高収益である為、アマゾンに関しては例外的にAWSセグメントのみにPillar 1を適用する検討がされているようです。

日本企業でPillar 1の対象となる企業、つまり売上高200億ユーロ(約2兆6千億円超)で且つ利益率10%超の企業は、対象外となる金融系を除くと上場企業では僅か6社しかありません(2020年度)が、その内訳は通信大手3社とトヨタ、ソニー、武田薬品であり、いわゆるGAFAに相当するようなオンライン企業はありません。つまり、サービス提供に拠点設置が不要のため節税を行い易いオンライン企業ではない、伝統的な産業に属する大企業も課税対象になるということです(ソニーは事業がかなりオンライン化しているようですが)。ちなみに、売上高200億ユーロ超ですが利益率が10%以下の日本企業は上記の6社以外に43社あります(金融業を除く)。つまり、日本の大企業の殆どは利益率が低い為にPillar 1の対象外となりそうです。

2Pillar 2(二つ目の柱)について

 Pillar 2はグローバル最低法人税率案です。つまり、最低税率(現在“15%以上”となっている)を下回る税率の国・地域に所在する拠点の所得を、多国籍企業の親会社が所属する国がその最低税率で合算課税できるという仕組です。このPillar 2の対象となるのは、売上高7.5億ユーロ(約975億円)以上の多国籍企業で、こちらは全ての業種が対象ですので、Pillar 1以上にデジタル課税とは全く関係のない、一般的な租税回避防止策といえます。

 参考までに、2020年度で売上高975億円を上回る日本企業は上場企業だけで941社あります。勿論この中には建設・不動産業をはじめ日本のみで事業を行っている会社もありますが、要はPillar 2についてはより多くの企業が対象になるという事です。問題は、既存の日本の外国子会社合算税制との関係です。現行の合算税制は既に課税対象が相当広くなっているので、おそらくそれを補完する形での適用になるでしょうか。出来れば、複雑化し過ぎた現行の合算税制を、Pillar 2の適用に合わせて世界標準化(簡略化)してほしいものです。

3.世界的な影響

 OECDは、このPillar 1及び2のガイダンスを最終化し、2023年から各国で適用する目標を掲げています。そうなると、やはり影響を最も受けるのは低税率地域でしょう。アジアでも、低税率で企業を誘致してきた香港やシンガポールの税収は減ることが予想されています。

企業側からみると、Pillar 1は税金再配分の性格が強いものの複雑で手間がかかるもので、人材が豊富な巨大企業でもこれを歓迎する会社があるとは思えません。またPillar 2はタックスヘイブン地域を使って大掛かりな節税を行ってきた欧米系企業にとっては、税負担が大幅に増える可能性があり脅威でしょう。

日本企業については既に述べた通り、Pillar 1の対象企業は殆ど無く、Pillar 2も既存の合算税制で殆ど対応済のため、影響は比較的少ないと思われます。但し、対象企業は今後拡大されていきますし、このようなグローバル課税が世界的に及ぼす間接的な影響についても考慮しておく必要があるといえます。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2021年10月号掲載記事より転載)