2022年1月:海外取引に関する日本の税務調査の状況

国税庁は2021年11月30日付で、「令和2事務年度 法人税等の調査事績の概要」を発表しました。

令和2事務年度(2020年7月~2021年6月)は、新型コロナウィルス感染拡大とそれを受けた度重なる緊急事態宣言の発動等により実地調査の実施が難しくなったと共に、各地の多くの国税局・税務署において新型コロナ感染者が発生し、度々業務が中断した模様です。その為か、全体の法人税・消費税実地調査件数は前事務年度の76千件から25千件と約3分の1に激減しました。

そのような中、令和2事務年度における海外取引に関する実地調査の事績については以下の通りです。(以下、国税庁発表資料の数字を使用。但し1件当たり金額は筆者が計算)

 

1.海外取引に関する調査事績

(1) 海外取引法人等に係る実地調査の状況

海外取引全般に係る法人税の実地調査件数も前事務年度の13,116件から4,569件(前年度比65%減)となりました。それに伴い、非違があった件数も3,636件→1,424件(同61%減)、申告漏れ所得金額についても2,411億円→1,530億円(同36.5%減)と減少しましたが、件数に比べて金額の減り方が少なかった事から、1件当たり申告漏れ所得金額は前年度の0.7億円から1.1億円へと増加しました。

(2) 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン税制)に係る実地調査の状況

タックス・ヘイブン税制については、非違があった件数は前年度43%減の37件でしたが、申告漏れ所得金額は前年度比78%減の92億円と更に急減し、1件当たり申告漏れ所得金額は6.6億円→2.5億円と大きく減少しました。前事務年度において報道されたような巨額な申告漏れ事案が殆ど無かったものと推測されます。

(3)移転価格税制に係る実地調査の状況

一方、移転価格税制については、非違があった件数は前年度比37%減の134件でしたが、申告漏れ所得金額は502億円と前年度比6%の微減にとどまり、よって1件当たり申告漏れ所得金額は前年度の2.5億円から3.7億円へと増加しました。実地調査件数が減った中、大企業や高額の関連者間取引に重点を置いた執行が行われたものと推測されます。

(4) 移転価格税制に係る事前確認の申出及び処理の状況

移転価格税制に係る事前確認(“APA”)の申出及び処理の状況については、税務調査に関する数字と違い、意外にも申出件数(133→135件)、処理件数(107→121件)共に前年度比増加しました。APAについては更新案件が多いことから、企業の実地訪問無しで業務が進められたのかもしれません。但し申出件数の方が処理件数より多い状況は変わらず、繰越件数は前年度比14件増加し、過去最高を更新する463件となりました。

 

2.海外取引課税の事例

今回の国税庁発表資料には、以下のような海外取引に係る法人課税の事例が紹介されていましたので、以下参考までに紹介させていただきます。

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調査法人A社は、X国でのリベート資金を捻出するため、現地に所在するペーパーカンパニー3社(すべて調査法人代表者の親族が主宰)と虚偽の契約書を作成することにより、架空の手数料を計上していました。

なお、国税庁は、X国の税務当局に対して租税条約等に基づく情報交換要請を行い、X国に所在するペーパーカンパニー3社について、調査法人からの収入の計上がないことを把握しています。

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上記で記されている通り、日本は現在多くの国・地域と租税条約を締結しており、国外の関連会社の実態や資金の移動について相手国の税務当局から情報を入手する事が可能です。また、消費税還付を目的として架空の国内仕入と輸出売上をセットで計上する行為についても、重点調査の対象となっている旨紹介されています。これらの架空取引は、発覚する可能性が極めて高いといえます。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2022年1月号掲載記事より転載)