2022年3月:OECDのグローバル課税案(Pillar 1)の進捗状況

前回(2022年2月号)では、OECDグローバル課税案のPillar 2(最低税率課税)のモデルルールについて紹介しましたが、Pillar 1についても2つのモデルルール案が2月に相次いで発表されました。

以前より本月報にて説明の通り、GAFA等の大手IT企業が、所得の殆どをサービス提供国ではなくアイルランド、バミューダ等のタックスヘイブンで計上している事に鑑み、サービス提供国での売上に対し一定の税率を課そうとする試みが元々のデジタルサービス税(DST)の案でした。ところが、OECDでDSTの統一案を検討してから、米国の介入を経て、劇的に変わりはてた姿が現在のPillar 1です。

 

A. これまでに定まったPillar 1の概要

 売上200億ユーロ(約2兆6千億円)超の多国籍企業(採掘業、金融業以外は全て対象)における売上高税前利益率10%を超える利益(超過利益)の25%(Amount A)を消費地国に配分・課税する。また販売活動に関する基本的利益の部分(Amount B)に関しても、税務執行が遅れている国を中心に課税し易い仕組を作る。(施行後8年後に適用対象売上基準が“100億ユーロ超”に下がる可能性有)

 

B. 2つのモデルルール案の概要

2月に発表された2つのモデルルール案は、Pillar 1のAmount Aに関するトピックがそれぞれ小出しで発表されたものであり、且つパブリックコメントの期間は各2週間と短く、2023年度からの各国での施行を目指してOECDが非常に急いている事がわかります。

  1. 24日発表のモデルルール案

Amount Aを消費地国に配分するために必要なNexus(課税基準地)とRevenue Sourcing(収益の源泉)について定めています。

(Nexus):対象期において該当企業が1百万ユーロ以上の売上をあげている国・地域が配分対象となります(但しGDPが年400億ユーロ未満の国・地域の場合、25万ユーロ以上の売上があれば配分対象)。

(Revenue Sourcing):Amount Aは実際に収益が生じた国(消費地国)に配分される必要がある為、収益の源泉地を特定する必要があります。本案では、基本的には取引毎に収益の源泉地を特定する必要があるとし、取引を以下の8つに分類・整理した上で、それぞれ源泉地を定義しています。

  • 最終消費者への完成品販売→最終消費者へ配送された地
  • デジタル商品販売→(消費者向けの場合)消費者の所在地、(企業向けの場合)販売が行われた地
  • 部品の販売→当該部品が組み込まれた完成品の最終消費者への配送地
  • サービス→(さらに8つのサブカテゴリー毎に異なるので省略)
  • ライセンス取引→無形資産の使用地 等
  • 不動産収入→不動産の所在地
  • 政府補助金収入→当該補助の実施地 等
  • 非顧客性収入→上記全ての収入の比率で配分

 上記の各類型において源泉地を決める際には信頼性の高い指標(reliable indicator)を用いる必要があるとし、例えば(1)最終消費者への完成品販売の場合、最終消費者の住所、最終消費者に販売する小売店の所在地などをreliable indicatorとしています。それらが適用できない場合のみ、グローバル配分キー(詳細未定も、人口、1人当たり最終消費額などの比率での配分を検討)を用いて関係各国に収益を配分します。

  1. 218日発表のモデルルール案(概略)

こちらは、Amount Aを算出するベースとなる該当多国籍企業の連結ベース税前利益(課税所得)を算出する方法についてのルール案となります。

  • 課税所得は、税前利益から税金支払、配当収入、株式持分損益等を除外した調整後の所得(欠損金控除可)。
  • 使用する連結財務諸表は、IFRS又は同等の信頼性を有する17ヵ国・地域(日本も含む)の会計基準により作成され、監査済であること。

 

C. 所見

以上の通り、超過利益の25%であるAmount Aの配分については、結局個別の(あるいは類型化した)取引毎に源泉地の決定及び配分をしなければいけないということであり、該当する年商200億ユーロ超の巨大企業においては莫大な事務負担が予想され、「不可能だ」(米国の業界団体)など重大な懸念が早くも上がっています。そもそも、IT企業以外の企業では、通常消費地(サービス提供地)に拠点を置いて所得を計上、納税しているのであり、超過利益をわざわざ消費地に配分すると二重課税になってしまい、それを排除する手間も更に余計にかかってしまう事が予想されます。個人的には、Pillar 1の適用対象はIT企業系に絞るべきと今でも考えています。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2022年3月号掲載記事より転載)