2022年4月:OECDグローバル課税案に対する反応

最近の国際税務に関する話題の多くは、OECDのグローバル課税案(Pillar 1及びPillar 2)で占められています。各国当局ともコロナ禍に加え、(少なくとも西側諸国は)グローバル課税案を国内税制に反映させる必要から、新たな税制の整備を控え動きづらい状況にあるのかもしれません。そこで今回もグローバル課税案の話題として、両Pillarのモデルルールに対するEUや産業界の反応について紹介します。(Pillar 1、Pillar 2の概要については、過去の筆者の本月報原稿をご参照ください。)

A. EUの動き

OECDは先進国38ヵ国が加盟する先進国クラブではあるものの、本部はパリにあるなど、実質的には欧州が主導権を握っていると言えます。グローバル課税案においても、EUが率先して法制化に向けて動いています。昨年(2021年)12月には行政機関である欧州委員会が早くもPillar 2に関する最低税率課税の指令案を発表しました。同指令案の内容はほぼOECDのPillar 2に則していますが、違いとしては、売上高7.5億ユーロ超であれば国外展開していない企業にも適用される点です。EUはアイルランド、ハンガリーなど現状法人税率が15%を下回る国が含まれていることから、それらの国に所在する企業にも漏れなく課税する為の措置かと考えられます。

まずはEU指令の制定に全加盟国の合意が必要であり、その後指令に基づいて加盟各国の税制が改正される必要があります。2022年上半期の議長国として同指令の制定を優先課題の一つに掲げるフランスは、年商7.5億ユーロを超える企業が少ない等影響度が少ない加盟国については法制化を5年間猶予し、その他の国についても法制化の期限を2023年末とする(当初案では2023年1月1日)という譲歩案を提示しました。しかし現時点でもマルタ、ポーランド、スウェーデンが、更なる延長が必要、議論が尽くされていない等の理由で反対しています。

また、ロシア・ウクライナ紛争については直接の影響は無いかもしれませんが、安全保障上の問題が優先されるべきであるような事態になれば、税制の整備である本件は後回しになるかもしれません。

B. 産業界(民間)の反応

専門誌の報道等をまとめると、企業や業界団体などから、主に以下のような要望が出されています。

(1)実施の延期

各国当局が今回の複雑な新しいルールを十分に理解し、自国企業への影響を評価した上で法制化すると共に、企業もそれに備える為の時間が必要である事を考えると、2023年の各国での導入は早すぎるので延期してほしいという要望です。例えば、スイスはPillar 2に基づく最低税率課税の実施は2024年1月から行う旨を早々と表明していますが、スイスを見習ってOECDや他の関係各国も実施を延期すべきであるという主張も出ています。

EUにおける実施時期が2023年末以降にずれ込みそうな事も含めて考えると、日本としても2023年度の施行にこだわらず、十分な時間をとって法制化に取り組む事を検討する余地があるように思えます。

(2)セーフ・ハーバー

例えばPillar 2に関し、多くの国外拠点を有する多国籍企業にとっては、全拠点の実効税率を算定するのは相当な労力を要します。そのような場合、法人税率が相当に高く実効税率15%を下回る可能性がきわめて低い国(日本、ドイツ、米国等)については算定を免除するようなセーフ・ハーバー制度が要望されているようです。

(3)欠損金繰越年数の制限反対

OECDはPillar 1のAmount A算出の際の過去年度の欠損金の利用について、繰越年数等の制限を設ける前提で検討中とモデルルールで述べています。しかし、欠損金繰越は基本的に無期限で使用できるべきである、または制限は設けても15年間以上とすべきである等の要望が出されています。

(4)米国GILTIとの二重課税問題

米国ではトランプ政権時に、低税率国の子会社が生み出す超過利益に合算課税するGILTI(Global Intangible Low-Taxed Income)という制度が施行されていますが、Pillar 2の最終化に伴い米国がGILTIを廃止する見込みはなく、OECDもPillar 2とGILTIは「共存する」としています。問題は日本など米国以外の多国籍企業が、米国子会社を通じて低税率国に孫会社を有する場合、米国のGILTIと本国のPillar 2が両方適用されて二重課税が生じる可能性がある為、そのような二重課税が生じない措置(例えばGILTI適用外とする)の制定が要望されています。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2022年4月号掲載記事より転載)