2023年12月:OECDが2022年の相互協議統計を発表

経済協力開発機構(OECD)は、世界133ヵ国における2022年二国間相互協議統計(Mutual Agreement Procedure Statistics for 2022、以下“2022年統計”)を2023年11月14日に発表しました。

移転価格税制など国際課税により二重課税が生じた場合、基本的に租税条約締結国間であれば、納税者の申請により、両国政府当局間で二重課税を排除する為の相互協議を行ってもらう事ができます。相互協議において、両国当局は二重課税排除を「解決するよう努める」義務を負うものの、解決する義務自体までは負っていないことから、協議が成功し二重課税が排除されることもあれば、協議が決裂し二重課税が排除されない事もあります。以下、2022年統計の概要を紹介します。

1.全世界の発生・処理件数

2022年は、コロナ禍による社会的制限が世界的に緩和されたこともあり、移転価格に関する相互協議発生件数が前年比約11%増加し、発生件数合計でも3%増加となりました。発生件数全体に占める移転価格の件数の割合も、対BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)プロジェクトを受け世界的に移転価格税制の大幅改正と税務当局の執行が強化されていることを背景に、2017年の38%から2022年は47%へと年々増加しています。

一方、相互協議の処理件数は移転価格、その他ともに2021年より減少しました。同じくコロナ禍社会的制限の緩和にもかかわらず奇異な感じがしますが、OECDによると、2021年は各国当局間のオンライン会議でもこなせる簡単な事案の処理に各国とも注力した為件数が増えた(2020年比+7%)のであり、2022年は通常のベースに戻っただけであるとの事です。2022年は発生件数が処理件数よりも多かった分、全世界での相互協議繰越件数は6,297件→6,416件へと増加しました。

2.2022年の相互協議件数(主要国)

上記主要国の中で圧倒的に件数の多いのはドイツですが、ドイツに限らず欧州各国は国が近いので当局間の協議も頻繁に行えるためか、多くの相互協議件数をこなしています。欧州のみならず米国やインドでも相互協議は多く活用されている一方、中国や日本の件数は少なくなっています。但し日本は二国間APAの相互協議件数は非常に多く、2022事務年度では243件(前年度比+55件)と過去最高を更新しましたが、本OECD統計ではAPAに係る相互協議件数は含まれていません。

3.相互協議の平均処理期間及び処理率

※ 処理率:2022年に処理された件数÷(2022年初の繰越件数+⦅2022年発生件数÷2⦆)

2022年に処理された相互協議事案に要した平均期間は、世界全体で26ヵ月→25.3ヵ月へ短縮されており、各国も軒並み短縮されましたが、目標期間である24ヵ月を下回っているのは上記主要国の中ではドイツのみです。これだけ多くの事案を短期間で処理しているドイツは、相互協議を最も上手く運用している国の一つといえます。

4.相互協議における解決件数

(カッコ内は処理件数全体に対する割合)

ドイツや米国は多くの件数をこなしながら相互協議による完全合意率も60%以上を出した実績は目立ちます。完全合意率は低いが自国での救済率でカバーしているインド、完全合意率は高いが自国での救済可能性は極めて低い日本などは、例年と同じ傾向です。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2023年12月号掲載記事より転載)