2024年1月:海外取引に関する日本の税務調査の状況

国税庁は2023年11月29日、「令和4事務年度 法人税等の調査事績の概要」を発表しました。

令和4(2022)事務年度(2022年7月~2023年6月、以下西暦で表示)は、コロナ禍による社会的制限が緩和されたことによる実地調査の実施増加を受け、全体の法人税実地調査件数は、2020事務年度の25千件、2021事務年度の41千件から62千件へと大幅な回復を示しています。

1.海外取引に関する調査事績

(1) 海外取引法人等に係る実地調査の状況

海外取引全般に係る法人税の実地調査件数も前事務年度の6,679件から10,394件(前年度比56%増)へと増加しました。それに伴い、非違があった件数も1,752件→2,422件(同38%増)、申告漏れ所得金額についても1,611億円→2,259億円(同40%増)と増加しました。1件当たり申告漏れ所得金額は、前事務年度と同じ約90百万円となっており、法人税全体での1件当たり申告漏れ所得金額約17百万円と比べ非常に大きいのが海外取引課税の特徴です。

(2) 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン税制)に係る実地調査の状況

タックス・ヘイブン税制については、非違があった件数は107件と、前事務年度(57件)の約2倍となり、申告漏れ所得金額も406億円と前事務年度比37%増加しました。1件当たり申告漏れ所得金額は前事務年度の5.5億円から3.8億円へと減少しました。

(3)移転価格税制に係る実地調査の状況

一方、移転価格税制については、非違があった件数は前事務年度比微減(-3%)の149件でしたが、申告漏れ所得金額は392億円と18%増加した為、1件当たり申告漏れ所得金額は前事務年度の2.2億円から2.6億円へと若干増加しました。

(4) 事前確認の申出及び処理の状況

移転価格税制に係る事前確認(“APA”)についても、申出件数(175→205件)、処理件数(99→125件)共に前事務年度比増加しました。但し申出件数の方が処理件数より多い状況は変わらず、繰越件数(539→619件)は過去最高を更新しました。

2.海外取引課税の事例

今回の国税庁発表資料には、海外取引に係る法人課税の事例が紹介されていましたので、以下参考までに紹介させていただきます。

(1) 実態のない海外関連会社を経由した販売

(概要)調査法人A社は、Ⅹ国法人のC社との取引について、Ⅹ国のB社に対して、偽のインヴォイスを発行するとともに、B社からC社に対しても偽のインヴォイスを発行することで、B社が実際に取引に介在しているかのように偽装することにより、売上げを過少に申告した。課税当局は、民間情報機関からの情報を活用し、X国法人であるB社は実態のない法人であることを把握し、A社-C社間で行われた取引についてB社を経由したように仮装されたと判断した。

日本企業から海外の顧客に販売する場合、その顧客に直接輸出する場合と、現地の販売子会社を経由して販売する場合があり、顧客が後者(販売子会社からの購入)を希望する場合も多くあります。但しそのような場合は、現地子会社に従業員がいるなど実態が伴うのが普通ですので、実態がない販売子会社を経由させることに合理的な理由が無い限り、仮装取引と認定されるリスクが高いと思われます。

(2) 海外取引に係る源泉徴収漏れ

(概要)調査法人は、X国の非居住者Aに対して貸し付けた金銭の返済がなかったため、非居住者Aが所有する国内の不動産による代物弁済を受けた。この不動産による代物弁済は不動産の譲渡に該当するが、その譲渡対価として金銭の支払をしていなかったことから、源泉徴収を行っていなかった。

本事例では、非居住者への貸付取引に関する代物弁済取引であっても、対象物からして本件は不動産の譲渡取引に該当すること、及び譲渡対価支払の有無にかかわらず不動産譲渡取引は源泉徴収の対象となるという注意喚起がされていると考えられます。他にも、非居住者に払った使用料、利子、配当等に係る源泉徴収漏れなど、海外取引に関する源泉徴収漏れは単なるミスである場合が殆どですが、当局は着目しているようであり、注意が必要になります。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2024年1月号掲載記事より転載)