2024年2月:OECD Pillar 2 (GMT)の概要及び各国の動向(1)
OECD主導で進められているグローバル課税プロジェクトについては、これまで何度か本月報でも紹介しています。内Pillar 1については未だ「案」のままですが(本記事では省略)、Pillar 2であるグローバル・ミニマム課税(Global Minimum Tax、以下“GMT”)については、今年2024年から日本を含めた一部の国で実施が始まります。このGMTについては、OECDのガイダンスに各国が忠実に従った法制を作る、いわゆるOne World Tax的意味合いを有する制度ですので、内容が固まってきた同制度について現時点でまずは概要及び日本での制定状況を説明の上、次いで他国における対応等についてみていきたいと思います。
GMTの概要
GMTは、15%を最低税率とする課税制度であり、直近4年度の内2年度以上におけるグループ総収入額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業が適用対象です。日本の法令でも基準はユーロ建てで定められているので、為替レート(現在は約1,200億円)によって円建ての適用基準額は変動します。GMTは、主に以下3つのルールからなります:
(1)所得合算ルール(Income Inclusion Rule、以下“IIR”)
IIRは、適用対象企業の子会社等の所在国における実効税率が15%を下回る場合、親会社等の所在国で15%との差額を課税するルールです。海外子会社の所得を親会社の本国で課税するという点で、既に日本にある外国子会社合算税制と重複しますが、既存の合算税制は、大まかには税率にかかわらず実態のない子会社を合算課税するのに対し、IIRは、実態の有無にかかわらず15%の税率以上であれば課税しない制度である点が異なります。
日本では、令和5年度(2023年度)税制改正において、まずはこのIIRが制定され、2024年4月以降開始の事業年度から適用になります。つまり3月決算の適用対象企業は2024年度(2025年3月期)からの適用となる一方、12月決算の適用対象企業は2025年度(2025年12月期)からの適用となります。
(2)軽課税所得ルール(Under-taxed Profits Rule、以下“UTPR”)
UTPRは、適用対象企業の親会社所在国における実効税率が15%を下回る場合に、子会社の所在国でその税負担が15%に達するまで課税するルールです。UTPRは、IIRのもとで課税が行われない限定的な状況においての補完的適用を想定したものです。例えば、日本子会社の親会社がGMT適用対象企業にもかかわらずGMTを採用しない軽課税国に所在する為IIRが適用されず、15%未満の税率を実現できてしまう事態を招かないように、日本が子会社に対しUTPR課税を行う事によりグループ全体に対する15%課税を確保することが目的です。
日本では令和6年度(2024年度)税制改正大綱においてもUTPRは定められませんでしたが、おそらく令和7年度(2025年度)税制改正に間に合わせて制定され、他国と歩調をあわせて1年遅れの2025年度から適用されるのではないかとみられています。
(3)適格国内最低課税ルール(Qualified Domestic Minimum Top-up Tax、以下“QDMTT”)
QDMTTは、適用対象企業グループに属する子会社等の所在国における実効税率が15%を下回る場合に、当該所在国において税負担が15%に至るまで課税するルールです。QDMTTによって15%までの課税が行われた場合には、その税額を他国からのIIRやUTPR課税上で計算された税額から控除することが認められます。つまりQDMTTは、他国のIIRやUTPR課税により自国企業に対する課税権を失わないよう防御する機能を持つものといえます。
日本では、QDMTTはUTPRと同様現時点で未制定ですが、そもそも日本の税制では法人税実効税率が15%を下回ることは想定し難い為、QDMTT自体の制定に意味があるのか疑問です。但し令和6年度税制改正大綱では、適用対象企業の子会社等が所在国において一定の要件を満たすQDMTTを課することとされている場合には、その所在国に関する日本でのGMT課税額はゼロとするという適用免除規定が設けられました。よって例えば、2024年度からQDMTTの適用を決定したベトナムに所在し、優遇税制の適用により15%未満の実効税率を享受していた適用対象日系企業の子会社は、ベトナムにおける税率が15%に増加するものの、日本本社において複雑なIIRの課税額計算を行う必要が無くなるということになると思われます。
次月号では、日本とかかわりの深い海外主要国のGMTをめぐる最新動向について紹介の予定です。
(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)
(JAS月報2024年2月号掲載記事より転載)