2024年3月:OECD Pillar 2 (GMT)の概要及び各国の動向(2)

OECD主導で進められているグローバル課税プロジェクトのPillar 2であるグローバル・ミニマム課税(Global Minimum Tax、以下“GMT”)については、今年2024年度から日本を含めた一部の国で実施が始まります。しかし、2024年度からGMTを施行する国は意外と少なく、現時点では、現在の世界政治・経済に影響を及ぼす大国が殆ど含まれていないのが実状です。今月号では、世界各国のGMTへの対応状況について簡単に紹介します。

1.GMTの実施国数(地域別)

(出典:PWC’s Pillar Two Country Tracker<2024年2月12日更新>)

(※2024年度からの実施国には、一部最終法制化が確認できていないスペイン、カナダなども含まれている。)

上記表のとおり、2024年度からGMTを実施する国は34ヵ国となっています。これらの国はIIRまたはQDMTTのいずれか又は両方の実施を開始しており、UTPRについては全て2025年以降の実施予定又は現状未定となっています。

2024年度からの実施国の大部分はOECD(本部パリ)のお膝元である欧州諸国となっています(ロシアは未実施)。一方欧州以外では、2024年度からのGMT実施国はごく少数にとどまりました。米州では主要国ではカナダのみ実施で、米国、ブラジル、メキシコは未実施です。アジアでは日本、韓国、ベトナム、豪州及びニュージーランドのみで、中国、インド、インドネシアは未実施です。一方、タイ、マレーシア、シンガポール、香港(特別行政区)の4ヵ国(地域)は、翌2025年度からの実施を発表しています。

次に、未実施国の代表として米中両国の動向を以下紹介します。

2.米国

2021年10月にOECD/G20においてGMTに合意した約140ヵ国の1国であった米国ですが、その後議会の強硬な反対にあい、2025年以降の施行も全く見えない状態です。米議会がGMTに反対の主な理由として、同国が既に類似の海外所得合算税制であるGlobal Intangible Low-Taxed Income(GILTI)を有している事が挙げられますが、それならば日本も既に外国子会社合算税制があるのにGMTを導入しているのです。但し、同様な制度を二重に導入した日本よりも、拒絶している米国の方が(国際協調面を別にすれば)筋を通しているとも言えますし、企業にとっては余計な負担がかからず有難い筈です。そもそもGMTが作られたきっかけは米国の巨大IT企業による大掛かりな節税であった事、且つGMTの対象となる売上€7.5億以上の企業は米国が最も多い事を考えると、米国抜きでGMTを見切り発車した事自体、租税回避防止の実効性に疑義があります。

3.中国

中国はOECD非加盟国にもかかわらず、2021年10月にGMTに合意しており、更に2023年7月、G20財務相・中銀総裁会議においても、「中国は現実的で開放的な態度を維持し、OECDグローバル課税プロジェクトに積極的に参加する」と述べていますが、その後特段の報道もなく、現状未実施状態です。

ところで、国家税務総局のウェブサイトに、GMTに言及した中国財経報の記事が掲載されていますので、その部分の日本語抄訳を以下紹介します(2023年11月8日付記事):

「国際租税規則のSoft lawの属性は徐々にHard lawに変化し、各国間の租税ガバナンスの秩序は、二国間租税協定に基づく『協議メカニズム』から、多国間条約に基づく強制的拘束力を持つ『ルール・メカニズム』へと移行する。このようなディープ・グローバリゼーションの進展の中で、統一的な基準を持つグローバル・ルールの確立に伴い、独立国の課税主権は一定程度譲り渡される必要があり、独立国はディープ・グローバリゼーションへの統合と自国の課税主権を維持し、自国の課税利益を守ることとのトレードオフのバランスを取る必要がある。例えば、Pillar 2のGMT税制は、独立国から低税率(税率15%以下)で対外投資を誘致するための課税主権を事実上奪うものであり、これは一帯一路沿線諸国を含め世界経済の競争と発展に重大かつ広範囲な影響を与える。」

OECD非加盟国からの観点として正鵠を得た上記記事ですが、中国でもハイテク企業の優遇税制等により実効税率15%未満の企業があり、それら企業に対するGMT課税にどう対処するのか、中国としても悩ましい所である事がうかがえます。おそらく、他国の様子を見ながら少しずつGMT実施に向け動き出すと思われますが、今後の動向が注目されます。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2024年3月号掲載記事より転載)