2025年7月:国別報告書作成における誤りの例(OECDレポート)

OECDの主導により、マスターファイル、ローカルファイルと共に三層構造の移転価格文書化制度の一角として国別報告書(Country-by-Country Report、以下“CbCR”)の提出義務が2016年以降に各国で課されてから、既に10年近くが経過しました。CbCRは、主にグループ全構成会社の損益・資産額等の所在国別一覧表(表1)、及び各構成会社の事業活動一覧表(表2)から構成される表様式の報告書であり、対象企業(収入総額年7.5億ユーロ以上<日本では1,000億円以上>の多国籍企業グループ)が本社所在国の税務当局に提出し、当該税務当局から関係各国に自動的に提供されます。日本の国税庁の発表では、令和5事務年度(2023年7月~2024年6月)においては、外国に最終親会社がある2,315グループのCbCRを58か国の外国税務当局から受領する一方、日本に最終親会社がある927グループのCbCRを68か国に提供しました。CbCRをみれば企業の国別の利益配分状況などが把握できるようになっており、各国税務当局が移転価格税制の税務調査の際に活用していると考えられます。一方2024年度から適用が開始されたグローバル・ミニマム課税においても、複雑な税額及び実効税率計算を行う代わりにCbCRの損益情報をベースとした簡易計算が認められる「適格CbCRセーフハーバー制度」が時限付で設けられたことから、企業にとってCbCRの重要性は更に高まっているといえます。そのような中、今年5月にOECDが「CbCRにおいて共通にみられる誤りの事例」というレポートを発表しました。2019年11月にも同名のレポートが出ていますが、今回新たに追加された事例もあります。以下、それら誤りの事例の中から主なものを紹介します。

表1に関する誤りの例

  • 通貨は、全構成会社について最終親会社の機能通貨に換算して記入しなければならないところ、複数の通貨が使用されている。
  • 数字は1単位の整数で記入しなければならず、小数点以下は記載してはならない。それにもかかわらず千単位、百万単位などで省略記載されていたり、小数点以下が記載されていたりすることがある。
  • 正しい箇所に数字が記載されていない:たとえば、ある国における従業員数が何百万人となっている一方、その国における有形固定資産額が何千(通貨単位)しかない場合、誤りが疑われる。
  • 収入金額は非関連者向け、関連者向け、合計に区分されており、非関連者向けと関連者向けを足した値が合計と一致しなければならないが、一致していないことがある。
  • 構成会社からの配当金収入は税前利益額に含めてはならないにもかかわらず、含まれていることがある。
  • 支払税額欄はプラスの数字を記載しなければならない(マイナス表示にしてはならない)。
  • 表1における国別収入額の合計がCbCR作成要件(日本では1,000億円)未満の場合、原則記入漏れがあるはずである。

表2に関する誤りの例

  • 構成会社の所在国に関して表1と表2が一致しないことがある(何れかの表に誤りがあると思われる)。
  • CbCRを電子申告にて提出する際、表2に記載される各構成会社の納税者番号(TIN)を記入する必要があり、TINを発行していない国については“NOTIN”と記入する(空白にしてはいけない)。それにもかかわらずTIN欄が空白になっている、TINを発行している国に所在する構成会社についてNOTINと記載されている、異なる複数の構成会社に同じTINが記入されている等の誤りがみられる。
  • グループの非連結会社でも構成会社であれば表2に記載しなければならないところ、連結、非連結を問わず表2に記載されていないケースがある。
  • 構成会社の事業活動の選択が誤っている、またはOtherを選んだ場合、表3(空白になっている、追加情報記載欄)にその事業内容を記述しなければならないところ、その記述がない。

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グローバル・ミニマム課税対象となる企業は原則 CbCRの提出義務もある中で、複雑なグローバル・ミニマム課税の税額計算を避ける為、時限付きながら適格CbCRセーフハーバーは是非活用したいところです。ここでいう「適格CbCR」とは、連結等財務諸表(連結パッケージ)を基に作成されるものであることが条件であり、誤りのない正確なCbCRであるということでは必ずしもありません。しかしながら、今回のOECDレポートでは、多くの誤り事例について「(そのような誤りは)認められない」と厳しく指摘していることから、これらの誤りを含むCbCRについて、グローバル・ミニマム課税上も適格でないと判断されてしまうリスクも皆無ではないと考えられます。提出先の最終親会社所在国の税務当局、あるいは自動交換先の現地国税務当局で誤りが露見する前に、まずは企業が自ら、またはアドバイザーを活用して、提出前にチェックをより厳格に行っていくことが求められます。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2025年7月号掲載記事より転載)