2025年8月:One Big Beautiful Bill Act(税制改正部分)の概要

米国の独立記念日である7月4日にトランプ大統領は、One Big Beautiful Bill Act(“OBBBA”)の上院案(下院で最終可決)に署名し成立させました。OBBBAはトランプ氏が選挙前から言及していた政策を広範に盛り込んだ包括的法案であり、主に以下を含みます:

  • 税制改正(第1次トランプ政権で制定された時限減税措置の恒久化を含む)
  • 地球温暖化対策やEV含む再生エネルギー関連の様々な事業・プロジェクトへの優遇措置(補助金、税額控除等)の削減または廃止
  • 化石燃料採掘・生産に関してバイデン政権時代に設けられた規制の撤廃
  • 軍事、国境警備、不法外国人強制送還等、国防予算の大幅増強
  • 医療保険(メディケイド)の歳出削減(受給資格強化)

本稿では、税制改正部分の概略を紹介します。

個人

  • 最高税率37%を含む現行所得税率を恒久化する(第1次トランプ政権時に6%から減税したが、今年末に期限切れの予定であった)。
  • 飲食店等の従業員が受取るチップ収入(上限$25,000)、及び時間外労働報酬(上限$12,500)について2028年までの時限措置で非課税とする。但し年収$150,000超の場合段階的に減額・廃止。
  • 米国で作られた乗用車を個人使用目的で購入した際のローン利子が最大$10,000税額控除可能となる。但し年収$100,000超の場合段階的に減額・廃止。
  • 州・地方税の控除額を現行の$10,000から2029年までの時限付きで$40,000に増加する。
  • 相続税・贈与税の1人当り基礎控除額を$15百万(約22億円、インフレ調整有)に拡大する(第1次トランプ政権で時限立法として増額され、現在約$14百万も来年から$7百万に減額の予定であった)。
  • 「トランプ口座」と呼ばれる未成年者向け税制優遇貯蓄口座を創設し、2025~2028年の間に生まれた子の同口座に政府が$1,000を拠出する。
  • 個人による米国外への送金について1%の物品税(送金税)を2026年以降課す。但し適格金融機関からの送金又は米国内で発行されたクレジットカード、デビットカードにより調達された資金の送金は対象外(下院案の5%から引き下げられ、条件も緩和)。

法人(国際課税含む)

  • 米国内の研究開発費用について即時100%償却の選択が認められる(過去3年平均売上高が$31百万以下の納税者は2022年まで遡及適用可)。
  • 第1次トランプ政権で設けられた適格固定資産の100%ボーナス償却を復活及び恒久化。
  • 利子費用の控除制限額(調整後課税所得×30%)に関して、調整後課税所得の計算から減価償却費を除くことを認める(=制限額の緩和)。
  • 外国源泉無形資産所得(FDII)及び国外無形資産低率課税所得(GILTI)に関し、2026年から各々4%及び13.125%に上がる予定であった実効税率を14%及び12.6%にとどめ、名称をFDDEI及びCFC tested incomeへと変更。
  • 税源浸食濫用防止税(BEAT)に関し、2026年から5%へ引き上げ予定であった税率を現行の10%から微増の10.5%にとどめる。
  • 特定の私立大学の基金の投資収益に課せられる物品税を、現行の4%から、基金の価額及び学生数などの変数に応じて1.4%~8%の段階的税率構造とする(但し下院案の最高税率21%からは引き下げ)。

(補足・解説)

現在の米国は上院、下院、ホワイトハウスと共和党が独占する「トリプル・レッド」状態ですが議席数は僅差の為、複数の共和党議員が造反すると思惑通りの審議進行は難しくなります。その結果、OBBBAの上院案は下院案よりマイルドになったものの、税改正項目は殆どが減税の一方、不法移民関連(送金税)、急進的リベラル主義に染まり外国人留学生数が急増する大学、クリーン・エネルギー関連に対しては増税と、全体的に現政権の方針が明確に反映されています。

更に、OBBBA下院案に含まれていた「外国報復課税案」は最終的に除かれましたが、その理由は、今年6月のG7会合において米国企業をグローバル・ミニマム課税(GMT)から除外する合意に達したからとのことです。現米政権の強大な実行力・交渉力(及び国際協調性の欠如)には驚くばかりですが、そもそもGMTを含むOECDグローバル課税スキームは、軽課税国を活用して低税率を享受していた米国企業が標的でした。その米国企業が対象外となると、GMTを実施する意義が実質的に殆ど失われているといえます。

何れにせよ、これでトランプ氏が満足しているとは到底思えません。彼が歴代大統領の中で最も尊敬するウィリアム・マッキンリー氏(在任1897-1901年)は、所得税が無い時代に高率関税と物品税を主な歳入源に米国に繁栄をもたらしたと言われています。世界中を席巻するグローバリズムと対極の国内優先主義を、高関税と所得税・法人税減税を中心に今後更に現政権が進めていく可能性は高いと思われます。

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2025年8月号掲載記事より転載)