2025年10月:最近の中国税務ニュース(国際関連)

1.中国への再投資に税優遇制度を設ける

中国政府は2025年6月30日、「外国投資家の配当収益による直接投資に対する税額控除に関する公告」(財政部、税務総局、商務部公告2025年第2号)を発表しました。2025年1月1日から2028年12月31日までの間に、外国投資家が中国企業から得た配当収益を中国国内への直接投資に充当する場合、投資額の10%が外国投資家の該当年度の納税額から控除されることになりました。該当年度の納税額が投資額の10%に満たない場合は次年度以降に繰り越すことができるとしています。但し、以下の条件を全て満たす必要があります。

  • 外国投資家の配当収益は、中国国内に所在する企業が当該投資家に対し実際に分配した株式配当などの権益性投資収益を指す。
  • 外国投資家が配当収益を用いて行う国内直接投資は増資、新規設立、持分買い取りなどの権益性投資を含む。但し(一定の条件を満たす戦略的投資を除き)上場企業への資本金払い込みは含まない。
  • 外国投資家の国内再投資の期間中、投資先企業が「外商投資奨励産業目録」に記載されている産業に属していること。
  • 外国投資家の国内再投資は少なくとも5年(60カ月)保有されなければならない。
  • 外国投資家が国内直接投資に用いる配当収益は、利益分配企業から投資先企業、または持ち分譲渡人に直接移されることとし、投資が行われる前に国内外の他の口座に移してはならない。

これら条件に合致する外国投資家は、投資先企業を通じて商務主管部門に所定の情報等を提出します。なお税額控除の対象は、利益分配や再投資を実施して以降、利益分配企業から得た配当、利子、ロイヤルティなどに関し、外国投資家が納付すべき企業所得税(源泉徴収税)となります。

上記のような細かい条件はあるものの、日本企業も中国子会社から得た株式配当を同子会社の再投資へまわす場合には活用可能ですので、検討する価値はあります。2023年頃より(経済成長率の数字にかかわらず)中国実体経済は低迷しており、現状では同国への再投資需要はあまりないかもしれませんが、だからこそ、中国政府が自国経済活性化の為直接投資の促進を図っているとも考えられます。

2.ドイツが中国とのAPA交渉を停止

ドイツの連邦中央税務局は、2025年7月より中国と事前確認(Advance Pricing Agreement、以下“APA”)に関する新規の手続きを一時的に(後日通知するまで)停止することを発表しました。既に申請済のAPAには影響はありません。同局によると停止の理由は「二重課税の回避、または外国当局との一貫した解釈における合意の実現を目的としてAPAを実施しているが、最近の中国との交渉において上記の目標は達成できなくなった。」とのことです。

租税条約を締結する両国が、それぞれAPAの制度を有していれば、租税条約に基づき二国間APAの相互協議も両国当局間で行われなければなりません。今回のように、特定の国とのAPAを停止するというのは極めて異例な措置であり、筆者も過去記憶にありません。ドイツにとって中国の交渉態度が余程腹に据えかねたのかもしれませんが、日本の国税庁も、中国との相互協議(APA含め)は「極めて困難なケースが多い」と毎年のように述べていることからも、自国の利益に固執する中国当局の姿勢が交渉を困難にしていることが推測されます。両国がお互いにある程度妥協・譲歩しないとAPAを合意に導くのは難しいことは明白ですが、今の中国税務当局は面子に拘りすぎてそれが実質的に出来ない状況であることが改めて浮き彫りになりました。

3.グローバルミニマム課税(GMT)導入の気配なし

中国は、2021年10月にGMTに合意した139ヵ国のリストに名を連ねており、その後もG20財務相・中銀総裁会議等において積極的に参加する旨述べていますが、その後特段の報道もなく、現状未実施状態です。

何故中国がGMTを実施しないのかは不明ですが、以前に本月報拙稿(2024年3月号)でも紹介したように、中国はGMTの本質を“各国が課税主権の一部を譲歩しグローバリゼーションを達成する為のツール”と捉えていると考えられる為、課税主権の譲歩につながるGMTに慎重になっている可能性はあります。

2025年度迄にGMTを実施済の国は現在56ヵ国(内33ヵ国が欧州)となっていますが、中国の他、米国、インド、ロシアも含まれておらず、悪く言えば小国の集まりともいえます。既に第2次トランプ政権下で米国の不参加が決定している中、これでもし中国が参加しないとなると、世界経済の上位2ヵ国が参加しないGMT自体の存在意義が問われるべきです。政治的にコミットしたにもかかわらず実施しないのは身勝手だとの意見はあるでしょうが、企業側にとっては、コンプライアンス負担の重いGMTの実施を少なくとも先送りしてくれている政府はむしろ有難い存在ではないでしょうか。

 

(執筆:株式会社コスモス国際マネジメント 代表取締役 三村 琢磨)

(JAS月報2025年10月号掲載記事より転載)