新着情報(2020年3月31日):米国IRSが2019年度APAレポートを発表

米国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)は2020年3月25日付で、2019年度のAPAの状況をまとめたレポート(Announcement and Report concerning Advance Pricing Agreements、以下“APAレポート”)を発表しました。

APAは移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間以上)との間で予め合意又は確認し、一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスクを回避する為の最も確実な手段です。米国では1991年から行われていますが、IRSによるAPAの年次報告書は2000年以降毎年発表されており、今年で21回目の報告書となります。ちなみに、APAが世界で初めて制度化されたのは日本ですが、日本の国税庁もIRSにならって2003年以降毎年APAレポートを発表しています。2019年度APAレポートの概要は以下の通りです:

1.申請件数

2019年度のAPA申請件数は121件と、2018年度の203件から大幅に減少(-40%)しました。全121件の内104件(86%)が二国間APA(8件の多国間APAを含む)で占められています。二国間APA申請件数の相手国で最も多いのは相変わらず日本(32%)、次いでカナダ(14%)、インド(12%)の順となっており、米国で申請された二国間APAの58%をこの3ヵ国向けが占めています。

申請件数が大きく減ったのは、米国におけるAPA申請に当たってIRSに支払うユーザーフィーがほぼ2倍近くに急騰したことから、値上げ前の駆け込み申請が2018年に多数発生したことの反動が原因です。しかし、ユーザーフィーを先に満額払えば、その後120日以内に完全なAPA申請書を提出する事を条件に申請が認められる値上げ前の駆込み“フィー支払申請”が2018年12月末時点で71件あり、これらは2018年の申請件数にはカウントされていません。よって、上記71件が予定通り全て2019年に申請されたと仮定すれば、2019年にユーザーフィーが支払われた実質的な申請件数は50件と、2018年の4分の1まで激減した計算になります。

2.締結件数

(1)全般

 2019年度のAPA締結件数は120件と、2018年度の107件に比べて13件(+12%)増加しました。しかし申請件数の大幅減に比べて処理件数の増加幅は少ないように思われます。財政赤字の影響で、IRS APMA部門(Advance Pricing and Mutual Agreement Program、APA及び相互協議部門)の職員が更に減少している可能性もあると思われます。なお、全締結件数の内更新(renewal)案件数は68件、全体に占める更新案件の割合は57%と、全締結件数の約6割が比較的処理が容易な既存APAの更新であるという状況は2018年からほぼ変わっていません。

(2)二国間APA締結件数の国別内訳

2019年度二国間APA締結のうち91件(76%)は二国間APA、残る29件(24%)が米国のみAPAとなっています。二国間APAの相手国としては、日本が変わらずトップであり、全体に占める比率は39%→49%と更に増えました。2位のカナダ(11%)と合わせて全二国間APA処理の6割が日本又はカナダの案件であった事になります。米国のAPAにおける日本への依存度が未だ非常に大きい事がわかります。以下、3位韓国(10%)、4位オーストラリア(9%)、5位スイス(4%)となっています。2016年度にAPAが解禁されたインドは、申請件数ではここ数年上位にきていますが、処理完了には未だ時間がかかるようです。

(3)締結対象取引の内容

例年の傾向通り、2019年度締結件数の内、米国親会社と米国外子会社との取引に係る案件は全体の16%しかなく、少数派です。その他は基本的に米国外の企業による取引と考えられ、特に締結された日米間APAの殆どは日本企業による取引と思われます。

3.平均処理期間

 2019年度の全締結案件における平均処理期間は40.0ヵ月と、2018年度の42.8ヵ月から3カ月弱減少しました。但しその内訳をみると、更新案件の平均処理期間が40.8→36.5ヵ月と4ヵ月減少したのに対し、新規案件は45.5→45.0ヵ月とほぼ横ばいという結果になっています。新規案件に多く含まれると思われる対インド案件の処理が難航している可能性もあり、申請件数が減っている割には処理が進んでいない状況を示しています。いずれにせよ、新型コロナウィルス流行による未曽有の経済減速により多くの企業の資金繰りが日々悪化している中、$113,500(中小企業でも$54,000)と極めて高くなった米国APA申請フィー、及びビッグ4など専門家に支払う高額なコンサルティング・フィーを考慮すると、移転価格文書化と違い税法上の義務ではないAPAの申請が今年更に減ることは間違いないでしょう。