米国IRSが移転価格文書の作成に関するFAQsを公表

米国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)は2020年4月14日付で、Transfer Pricing Documentation Frequently Asked Questions (FAQs)(移転価格文書に関する想定問答集)と題するガイダンスを発表しました。

米国では、移転価格課税による更正額が$5百万又は売上の10%のいずれか少ない方を上回ると税額に20%のペナルティ(net adjustment penalty)が賦課されます。但し、税法に則した合理的な移転価格算定方法を適用したことを示す移転価格文書が税務申告期限内に準備されていれば、ペナルティは免除されます。つまり、適切な内容の移転価格文書は、更正課税された場合でも移転価格ペナルティの賦課を避ける事ができますし、それよりも前に税務調査を早期に終わらせ移転価格課税が行われない可能性を飛躍的に高めます。本ガイダンスは形式的にはFAQsという形をとっているものの、実質的には適切な移転価格文書の書き方を指導する内容になっています。

(本FAQsの概要)

(Q1)高品質の移転価格文書を作成することで、ペナルティ回避以外にどんなメリットがあるか?

(A1)品質の高い移転価格文書があると、IRSの税務調査における追加質問等も少なく、早期に調査を終結することが出来るので、税務当局、納税者の両方にメリットがある。

高品質な移転価格文書の例:機械製品を親会社から輸入・再販売する米国の販売子会社は、X%の再販売マージンを得るよう親会社との取引価格を設定していたところ、外的環境の変化により当該機械の需要が落込み、売上減少により再販売マージンが固定費をカバーできず赤字になった。このような場合、通常の環境であればX%のマージンで十分な営業利益率をあげており、赤字の原因は専ら外的環境の変化によるものであることを詳細な理由と共に説明してある文書。

低品質な移転価格文書の例:不適切な比較対象企業を選定し、無理やり赤字の販売子会社の利益率を四分位範囲に収めた分析を含む文書。

(Q2)移転価格文書の品質を高めるため、どのように“自己評価”を行うべきか?

(A2)例えば、比較対象企業のうち1社が外れるだけで検証企業の利益率がレンジを外れてしまわないか、また一つのみならず複数のPLI(利益率指標:売上高営業利益率、ROA等)を用いてもレンジに収まるか、等のチェックは有用である。

(Q3)独立企業間価格算定に当たってのIRSにおける基本原則はなにか?

(A3)関連者間取引価格は類似の第三者間取引と同様に設定すべきであり、つまり比較対象第三者間取引(あるいは企業)との比較可能性が重要である。比較可能性が十分でなければ、何らかの調整が行われるべきである。

(Q4)企業が作成した移転価格文書に関し、IRSが「改善が必要である」と考えるのはどの部分か?

(A4)業界分析及び企業概要:明確に記述され、且つ関連者間取引との関連性が示されるべき。

機能分析:単なるチェックリストでなく、事実と分析をリンク付ける為明確に記述されるべき。

移転価格分析:(1)最適な算定方法やPLI選択の結果のみならず理由を詳細に記述し、(2)比較可能性分析(差異の分析を含む)も詳細に行うべき。

(Q5)最も優れた(有用な)移転価格文書の特徴はどんなところにあるか?

(A5)(1)分析に用いられるデータ(例:セグメント損益)について詳細な説明がある、(2)事業リスクが関連者間でどのように配分されているかについて、関連者間における取引契約と整合性がとれた記述がある、(3)関連者間における利益の配分が合理的である、等。

(Q6)調査官のリスク評価に有用な関連者間取引に関するサマリー表の記入例はあるか?

(A6)本ガイダンスに添付したサマリー表は調査官のリスク評価上非常に有効であるが、あくまでも例であり、これでなければいけないというものではない。

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 今回のタイミングでこのようなガイダンスが出てきたことについて、コロナ騒動終息後は移転価格税務調査がより厳しくなると専門家筋では予測しています。コロナによる経済悪化での税収減に加え、廃止されていた法人税還付を再開する等の支援策により、米国財政は更なる悪化が必至ですので、1件当たり多くの税金がとれる移転価格税務調査が今後見直される事は間違いないでしょう。このように硬軟メリハリのついた米国政府の執行姿勢は企業にとって納得はいくものの、“硬”の方については十分な注意と準備が必要です。

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