新着情報(2022年4月9日):米国IRSが2021年度APAレポートを発表

米国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)は2022年3月22日付で、2021年度のAPAの状況をまとめたレポート(Announcement and Report concerning Advance Pricing Agreements、以下“APAレポート”)を発表しました。

APAは移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間以上)との間で予め合意又は確認し、一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスクを回避する為の最も確実な手段です。米国では1991年から行われていますが、IRSのAPAレポートは2000年以降毎年発表されています。ちなみに、APAを世界で初めて制度化したのは日本ですが、日本の国税庁もIRSにならって2003年以降毎年APAレポートを発表しています。2021年度APAレポートの概要は以下の通りです:

 

1.申請件数

2021年度のAPA申請件数は145件と、2020年度から24件増加しました。コロナ禍による移動等の社会的制限が続く中、二重課税回避の為のAPAのニーズは底堅い事を示していると思われます。但し、IRSがAPA申請フィーを大幅に引き上げたことにより、2019年度に申請件数が大幅に減少して(2018年度の203件から82件減少して121件となった)以降、大きな回復は示せていないのも事実です。

二国間又は多国間で締結されるAPA(以下“二国間APA”)申請の相手国で最も多いのは相変わらず日本(33%)、次いでインド(16%)、カナダ(10%)の順となっており、米国で申請された二国間APAの約6割をこの3ヵ国向けが占めています。

 

2.締結件数

(1)全般

一方、2021年度のAPA締結件数は124件と、2020年度の127件に比べて3件減少しました。また、全締結件数の内更新(renewal)件数は78件と、全締結件数の約6割が比較的処理が容易な既存APAの更新であるという状況はここ数年変わっていません。

(2)二国間APA締結件数の国別内訳

2021年度APA全締結件数のうち99件(80%)は二国間APA、残る25件(20%)が米国のみAPAとなっています。二国間APAの相手国としては日本が変わらずトップであり、全体に占める比率は2020年度の52%から40%へと減少したものの、米国のAPAにおける日本への依存度が未だ非常に大きい事がわかります。但し日本案件の大部分は更新案件と推測されます。以下、2位ドイツ(20%)、3位カナダ(7%)となっており、前年度は上位5ヵ国にも入っていなかったドイツの急上昇が目立ちます。一方、2020年度は2位だったインドは今回5位(5%)に下がりました。インドとのAPA案件における交渉・締結が難航していることがうかがえます。

(3)締結対象取引の内容

 例年の傾向通り2021年度においても、APA締結件数の内米国本社と米国外子会社との取引に係る案件は全体の25%と少なく、その他は基本的には日本をはじめ米国外に本社を置く企業と米国関連会社との取引と考えられます。

 

3.平均処理期間

2021年度の全締結案件における平均処理期間は39.2ヵ月と、2020年度の38.5ヵ月から0.7ヵ月増加しました。全体の約6割を占める更新案件の平均処理期間が32.8→34.0ヵ月と増加したのが影響しています。一方新規案件の平均処理期間は48.9→48.5ヵ月とわずかに減少しました。

 

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COVID-19の感染拡大が2年以上を経た現在でも終息せず、企業活動への様々な制約も続く中、$113,500(中小企業でも$54,000)と極めて高くなった米国APA申請フィー、及び移転価格専門家に支払う高額なコンサルティング・フィーを考慮すると、移転価格文書化と違い税法上の義務ではないAPAを米国で申請することについては、費用対効果を事前に十分に検証することが必要でしょう。