新着情報(2025年1月7日):中国及びインドが2023年度APAレポートを発表

中国の国家税務総局、及びインドのCentral Board of Direct Taxesは共に2024年12月、2023年度(中国は2023年1~12月、インドは2023年4月~2024年3月)におけるAPAの申請・締結状況をまとめたレポート(以下“APAレポート”)を発表しました。

APAは、関連者間取引価格及びその算定方法について、一定期間は税務調査を行わないことを税務当局が認める制度です。APAには大きく2種類あり、自国の税務当局に認めてもらうのがUnilateral APA(以下“UAPA”)で、最終的に対象取引の両国税務当局間で合意するのがBilateral APA(以下“BAPA”)です。つまり両国の課税リスクを回避できるBAPAが最も確実な移転価格リスク対策であると言えます。

なお、APAの正式英語名称は中国ではAdvance Pricing Arrangementである一方、インドではAdvance Pricing Agreementです。Agreement(合意)型の米国やインドでは、APA申請時に企業が税務当局に高額な手数料を支払う代わりに、「合意」というより高い確実性を得る事が出来るという見方もありますが、実際には、Arrangement(確認)型であり申請時の当局向け手数料が必要ない日本や中国におけるAPAの確実性がAgreement型よりも低いということは特にないように思われます。以下、中印両国のAPAレポート概要を紹介します。

(1)申請・締結件数

(表:中国及びインドにおけるAPA件数推移)

(注)カッコ内は内BAPAの件数。中国の申請件数は未公表。

米国や日本ではAPA事案の殆どがBAPAになっている一方、中国やインドでは未だにUAPAの件数が全体の相当部分を占めています。その理由としては、本社所在国等の取引相手側よりも中国・インド側で課税リスクが顕著に高いケースが多いことがあげられます。その為、中印側のリスクのみを回避すべくUAPAを選択している企業も少なくないものと考えられます。特にインドでは2023年度のUAPA締結件数が86件と過去最高を更新しました。一方で、両国とも最近BAPA事案が増えており、2023年度においては両国共にBAPA締結件数は過去最高を更新しました。このBAPA件数の増加が、特に中国においては、BAPAの運用に関して保守的とみられていた姿勢の変化を示すものなのか、注目されます。

(2)処理期間(APA申請から締結までの期間)

申請後、一ヵ国の税務当局による審査、及び企業と当局の交渉を経て締結されるUAPAよりも、二ヵ国の税務当局による上記プロセスの後に両国当局間による相互協議を経て締結されるBAPAの方が処理期間は長くなります。現に中国では、2023年度に締結されたUAPA 9件の全てが処理期間2年以内でしたが、BAPAについては締結27件の内半数超の14件が処理期間2年超を要しています。

一方インドは、2023年度BAPA締結39件のうち2年以内は3件のみ(平均5年6ヵ月)であり、UAPAでさえも、締結86件のうち2年以内が5件のみ(平均4年7カ月)と長期間を要します。よって中国の方がインドよりも処理期間が相当短くなっています(注:中国は締結事案の平均処理期間を公表していない)が、これは中国においては正式申請前に予備会談、申請意向書の提出が必要であり、当局によって絞り込まれた事案のみが申請されるという事情もあります。

(3)BAPAの取引相手国(累計ベース)

 中国のBAPAにおける取引相手地域は、アジアが締結件数全体の69%を占めており、次いで欧州(19%)、北米(11%)となっています(国別の内訳は非公表)。一方インドのBAPAの取引相手国は米国が申請件数全体の46%と圧倒的に多く、以下離れて英国(15%)、日本(9%)、ドイツ(3%)の順となります。

(4)対象業種

 APAを締結している企業の業種に関して、中国では製造業が78%と圧倒的に多く、次いで販売業(卸売及び小売)の11%となっています(全APA累計ベース)。対照的にインドではIT(情報技術)又はコンサルティング等のサービス業による利用が主流であり、2023年度締結事案においても32%がIT、16%がサービス業と合わせて半分近くを占めています。取引相手国と併せて考えると、中国では日本、韓国等アジア企業の製造子会社が、インドでは米国大手IT企業の子会社やコールセンター等のサービス拠点が主にAPAを締結していると推測されます。