新着情報(2025年4月4日):米国IRSが2024年度APAレポートを発表
米国内国歳入庁(Internal Revenue Service、以下“IRS”)は2025年3月27日付で、2024年度のAPAの状況をまとめたレポート(Announcement and Report concerning Advance Pricing Agreements、以下“APAレポート”)を発表しました。
APAは移転価格算定方法について納税者と税務当局(一国又は二国間以上)との間で予め合意又は確認し、一定期間は税務調査が行われないという、移転価格税務リスクを回避する為の最も確実な手段です。米国では1991年から行われていますが、IRSのAPAレポートは2000年以降毎年発表されています。ちなみに、APAを世界で初めて制度化したのは日本ですが、日本の国税庁もIRSにならって2003年以降毎年APAレポートを発表しています。2024年度米国APAレポートの概要は以下の通りです:
(1)申請件数
2024年度のAPA申請件数は169件と、2023年度の167件から+2件の微増にとどまりました。IRSがAPA申請料を大幅に引き上げた事により2019年には121件と大幅に減少したものの、その後は着実な増加傾向にあり、直近3年度は連続で150件を上回るなど、申請件数は底堅い動きを示しています。
2023年4月25日にIRSが発表した通達において、米国でAPA申請を検討する企業は、IRSのAPAチームと事前相談を行い、事前相談メモランダムを提出することが要請されるようになりました。IRSは同メモランダムを審査した上、その企業が正式にAPAを申請すべきか、又はAPA以外の方法を選択すべきかを4週間以内に決定して、企業に通知します。つまり本通達には、APAの申請をより選別し、事案処理の迅速化を図ろうとする意図がうかがえます。それに加えて、2024年1月以降の申請分については、IRSに支払う高額のAPA申請料が以下の通り更に値上げされました(新規申請:$113,500→$121,600、更新申請:$62,000→$65,900、小規模APA申請:$54,000→$57,500)。これらの「逆風」にもかかわらず、申請件数が高水準で安定しているのは、米国におけるAPA需要が底堅いことを示しているといえます。
申請件数の内訳としては、二国間又は多国間で締結されるAPA(以下“二国間APA”)申請件数が2023年度の150件から148件へと2件減少しましたが、米国のみAPAの申請件数は17件から21件へと4件増加しました。二国間APAの相手国で最も多いのは前年と変わらず日本(32%)、インド(26%)、カナダ(10%)の順となっており、米国で申請された二国間APAの約3分の2(68%)をこの3ヵ国向けが占めています。
(2)締結件数
2024年度のAPA締結件数は142件と、2021年度の156件に比べて14件減少しました。その内既存APAの更新件数は83件と、2023年度の74件から11件増加したものの、新規APA事案の締結件数は25件減少しました。全締結件数に占める新規件数の割合は2023年の53%から2024年度は42%へと下がりました。締結件数全体としては引続き高い水準にあるといえますが、新規事案の処理は2023年度ほど進まなかったことを示しています。
2024年度APA全締結件数のうち129件(91%)は二国間APA、残る13件(9%)が米国のみAPAとなっています。二国間APAの相手国としては、昨年度までの日本に代わりインド(全体の29%)がトップとなりました。以下2位日本(23%)、3位イタリア(11%)。4位カナダ(6%)となっており、昨年度と比べるとインドと日本が入れ替わった形になりました。
(3)繰越件数
申請件数の方が締結件数より27件多かったにもかかわらず、締結前に企業が申請を撤回した事案が17件あったことなどにより、IRSが抱える未処理事案の繰越件数は560件(2023年度は558件)と2件増加にとどまりました。
(4) 締結対象取引の内容
2024年度におけるAPA締結件数の内米国本社と米国外子会社との取引の件数は全体の37%、米国外本社と米国子会社との取引件数は56%と、2023年度と同じ割合になっています。日本を中心とする米国外本社との取引の方が未だに多いものの、米国本社とインド子会社との取引に係るAPAの最近の増加により、その差は以前より減少しています。
(5)平均処理期間
2024年度の全締結事案における平均処理期間は39.1ヵ月と、2023年度の42.5ヵ月から3.4ヵ月短縮されました。新規事案の平均処理期間も49.4→45.3ヵ月へと4.1ヵ月短縮されましたが、新規APAに関して企業が期待する2~3年の締結期間には未だ遠い状況である事は変わりません。